肝細胞癌は,その発症が慢性肝疾患と強く結びついており,診療においてハイリスクグループを特定でき,癌の早期発見,早期治療を効率よく実施できるという利点はある.しかし,たとえ初発癌に対し根治療法が施行されても,肝細胞癌の治療時,既に潜在性癌細胞や前癌細胞といった"癌の芽"が肝全体に多数存在し,その後その内のいくつかが時間的·空間的に多中心性発癌をおこすため,高率に2次発癌が生じる.前癌細胞をその段階で治療し,癌細胞への進展を阻止しようとする癌化学予防(ケモプリベンション)の概念に基づいて,非環式レチノイドは,初発肝細胞癌根治療法後の2次発癌を有意に抑制する.現在多施設臨床試験が進行中の非環式レチノイドによる肝発癌予防における分子機序と効果について,肝細胞癌で特徴的に認められるレチノイド受容体の機能不全との関連から概説する.