日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
今月のテーマ:消化器癌の分子メカニズムの研究の進歩
ウイルス性慢性肝疾患におけるリン酸化Smadを介する線維化・がん化シグナル
松崎 恒一関 寿人岡崎 和一
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キーワード: TGF-β, Smad, JNK, 肝線維化, 肝発がん
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2011 年 108 巻 8 号 p. 1363-1373

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抄録

近年,肝線維化と発がんを同時に促進する分子機構が,TGF-βシグナル伝達の詳細な解析より明らかにされた.TGF-βシグナルは,リン酸化Smadを介して伝達される.I型TGF-β受容体とc-Jun N-terminal kinaseは,Smad3のC末端と中央に位置するリンカー部をそれぞれリン酸化し,C末端がリン酸化されたSmad3(pSmad3C)とリンカー部がリン酸化されたSmad3(pSmad3L)を形成する.ウイルス性慢性肝組織の肝細胞におけるリン酸化Smad3シグナルは,pSmad3Cを介するがん抑制経路から,間質細胞に特徴的なpSmad3Lを介する細胞増殖促進(がん化)・線維化経路に,病態の進行とともに次第に移り代わっていった.この結果により,線維化進展に比して発がんリスクが高まるウイルス性慢性肝疾患の病態は,リン酸化Smadシグナル伝達の変遷に起因すると考えられた.

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© 2011 (一財) 日本消化器病学会
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