急性膵炎は,トリプシンの異所性活性化をひきがねとして消化酵素により自己消化を受ける病態であり,トリプシンが中心的な役割を果たすと考えられてきた.しかし,急性膵炎は血流障害,炎症細胞浸潤,局所的・全身的な炎症症候群などの多くの側面を持っている.発症の分子メカニズムはいまだに不明だが,発症早期の膵臓ではNF-κBの活性化,オートファジー,小胞体ストレスなども生じている.遺伝子改変モデルを用いた研究成果の蓄積により,トリプシンの異所性活性化は1つの側面に過ぎず,多くの現象が並行して進行すると考える多中心説が提唱されている.そこで,本稿ではこれまで明らかになってきた膵炎発症のメカニズムについて概説する.