抄録
胃粘膜を被覆する粘液は主として被蓋上皮から分泌されたもので, 組織化学的にはPAS陽性, Alcianblue 陰性の中性多糖体が主体を占める. この細胞内外の粘液は胃液分泌と密接な関係のもとに増減し, 胃液分泌の亢進は細胞内粘液の放出, ついで減少を招来し, 最終的には被覆粘液の減少をもたらす. 一方消化性潰瘍作成実験では潰瘍発生の初期変化として細胞内PAS陽性多糖体の減少が証明され, この中性多糖体に粘膜保護作用があることが考えられる. このような実験成績を参考として臨床例の手術材料を観察すると, 潰瘍発生論上, 細胞内PAS陽性多糖体の重要性が示唆される成績を得た. また, 経口的に投与した硫酸多糖体に潰瘍発生防御乃至治癒促進効果があることから, 多糖体の粘膜保護作用は潰瘍発生に対し重要な役割をなすものと考えられる.