1990 年 87 巻 12 号 p. 2594-2604
ヒト腸管での肝型脂肪酸結合蛋白 (L-FABP) を腸管切除標本を用いて single radialimmunodiffusion (SRID) 法で定量した. L-FABPは食道, 胃を除く十二指腸, 空腸, 回腸, 大腸までの粘膜の吸収上皮細胞にのみ比較的均一に含有され, その濃度は空腸で上清蛋白の約1.5%と最も高く, 次いで回腸, 十二指腸の順で分布し, 脂肪酸の吸収や細胞内転送などへの関与が示唆された. 小腸のL-FABP濃度は脂肪負荷の有無による有意な差異はみられず, またIVH施行期間との間にも相関を認めなかつた. 一方, 血清トリグリセリドおよび総コレステロール値と有意に相関した. 正常例では全大腸に下部小腸と同程度のL-FABP量が存在し, 各種大腸疾患のうち大腸癌では癌細胞内に対照と同等量含まれ, 潰瘍性大腸炎では有意に低値を示していた.