1991 年 88 巻 8 号 p. 1539-1544
ras遺伝子は, そのpoint mutation により活性化される癌遺伝子として知られている. 今回, われわれは oligonucleotide hybridization assay を用いて,大腸癌86例における K-ras codon 12, 13のpoint mutation の有無について検索した. その結果, codon 12に32例, codon 13に1例の33例 (38%) に point mutation を認めた. 変異の比率を腫瘍の存在部位, 組織型, 深達度, リンパ節転移, ステージ分類別に検討したが, 有意な関係は認められなかつた. しかし, 深達度mやsmといつた早期の癌においても高頻度に変異が検出され, ras遺伝子の point mutation が癌の進行過程というよりも発癌の過程に関係していることが推察された.