1999 年 96 巻 6 号 p. 627-633
H.pylori感染と胃癌のかかわりは,疫学のみならず動物実験でも明らかになってきた.H.pyloriが感染し,胃粘膜に生着することに成功した場合,菌種を問わず胃粘膜に急性炎症細胞浸潤を引き起こす.ここから先は,菌種による差異や宿主の免疫反応によって,胃粘膜の炎症や萎縮の程度に差が生じてくると思われる.さらに食事などの環境因子や遺伝的要因などがこれに加わり,腸上皮化生など遺伝子異常の生じやすい状況が作り出され,胃癌が発生してくる可能性が示唆されている.H.pyloriの除菌基準をどのように設定するかによって,将来のわが国の胃癌発症率に大きな影響を与える可能性が高いことが考えられるため,この方面の研究の進展がおおいに期待される.