日本消化器病学会雑誌
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腹膜播種の分子機構
米村 豊遠藤 良夫
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キーワード: 胃癌, 腹膜播種
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2000 年 97 巻 6 号 p. 680-690

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抄録

腹膜播種は原発巣漿膜から離脱した腹腔内遊離癌細胞が3種類の転移経路を経て形成される.遊離癌細胞の転移経路として乳斑や横隔膜にあるリンパ管基始部(小孔,stomata)から中皮下リンパ腔に進入する経リンパ行性転移,腹膜に直接接着する経腹膜転移および卵巣転移の3経路がある.経リンパ行性転移では脈管外通液路としての生理的な腹腔内液の流れにのり癌細胞がリンパ腔に達するので早期に転移が完成する.リンパ腔内に進入したあとは経腹膜転移と同じ過程で播種が形成される.経腹膜転移は多段階的に形成される.1)腹膜中皮に接着,2)サイトカインによる中皮細胞の収縮とそれにともなう基底膜の露出,3)基底膜に癌細胞が強く接着,4)中皮下間質へ浸潤,5)癌の増殖と血管,間質の誘導で播種が完成する.この過程がとどこうりなく進行するにはおのおのの過程の成立に必要な分子が多段階的に発現されなければならない.特に重要な分子として,接着因子(E-cadherin,integrin),運動因子(AMF/AMFR,HGF/MET,MTS1),マトリックス分解酵素(MMP7,MT1-MMP,urokinase,とその受容体),血管・リンパ管増殖因子(VEGF,VEGF-C)などである.このようにして完成された腹膜播種は複数の転移関連遺伝子が同時に発現している.したがって単一の分子を標的とした治療では腹膜播種を抑えることはできない.複数の転移関連遺伝子の転写因子であるc-etsを制御するような方法や,腹膜転移の最終段階である血管新生を制御することは新しい腹膜播種の治療法になる可能性がある.また制癌剤と転移関連遺伝子制御を同時に行う方法が将来行われるであろう.

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