2022 Volume 26 Issue 1 Pages 1-11
目的
分娩を取扱わない開業助産師の活動に対する思いを明らかにすることである.
方法
A県およびB県で分娩を取扱わない助産所を開業する助産師10名を対象に,半構造的面接を行い,質的帰納的に内容の分析をした.本研究は,香川大学医学部倫理委員会の承認後に実施した.
結果
対象者の平均年齢は58.7歳.分析結果より,5カテゴリーが抽出された.分娩を取扱わない開業助産師は,【母乳ケアならできる】という気持ちで助産所の開業を決心していた.開業してみると,病院ではできなかった【じっくり関わり母親に寄り添う】や,【母親に支えられ助産師として地域で活動する】ことを実感していた.さらに,開業助産師一人で関わる不安や迷いの経験から,地域で【多職種との連携で安心する】ことを痛感していた.そして,今後も【今の生活ペースで続ける】ことを望んでいた.
考察
分娩を取扱わない開業助産師は,母親や地域住民の支えで活動できると実感していた.また,地域での活動は,その効果を身近に感じることでやりがいとなり,助産所の質の向上を目指していた.さらに,病院ではできなかった母乳育児確立への継続支援と,産後ケア事業への取り組みは,開業助産師が地域で担う役割になる.そして,開業助産師が実施する健康支援は,母子への切れ目ない支援や女性の生涯にわたる健康支援に寄与できると考える.
結論
分娩を取扱わない開業助産師は,病院ではできなかった,母親にじっくり寄り添うことや,地域住民に支えられて活動ができていると実感していた.また,一人で関わる不安や迷いの経験から,母親のみならず地域の多職種のおかげで活動ができると痛感していた.さらに,開業助産師が,あらゆる世代の女性を対象とした助産所作りをめざして活動することは,母子への切れ目ない支援における一翼を担い,助産師が地域で担う役割になる可能性が示唆された.
Purpose: To clarify the thoughts of independent midwives who do not deliver babies on their activities.
Methods: Semi-structured interviews were conducted involving 10 independent midwives who do not deliver babies, and the obtained data were analyzed using a qualitative and inductive approach. This study was conducted with the approval of the ethics committee of Kagawa University Faculty of Medicine.
Results: The midwives who do not deliver babies began to run their own business by considering that “they could provide breastfeeding care”. They realized the importance of “spending more time providing mothers with emotional support” and the fact that they were able to “work in the community as a midwife being supported by mothers”. They were also keenly aware of the “sense of security in working with other professions” because they have experienced anxiety and hesitation of working alone. They, however, wished to “continue their activities at their current pace”.
Discussion: For independent midwives who do not deliver babies, support from local residents and other professions will promote trust and increase their job satisfaction. Continuous breastfeeding support and postpartum care services that require a great deal of time will be needed in the community. We believe that seamless maternal and child health support in the community can contribute to lifelong health support for women.
Conclusion: The independent midwives who do not deliver babies were keenly aware that their activities are supported by local residents and other professions. Continuous breastfeeding support and postpartum care services requiring their expertise will be needed by the community.
我が国で就業する助産師の数は,2006年では25,775人であるのに対し,2016年では35,774人であり,この10年で約10,000人増加している.また,助産師の就業場所を見てみると,2016年では,病院・診療所に就業する助産師は30,663人(約85.7%),助産所に就業する助産師は2,004人(約5.6%)である(厚生労働省,2017b).
分娩場所の変遷をみると,1950年には病院・診療所では4%,助産所では0.5%,自宅等では95.5%であったが,1970年には,病院・診療所での分娩割合と助産所・自宅等での分娩割合が逆転した.2016年には,病院・診療所での分娩は全体の99%を占め,助産所・自宅等での分娩は,わずかに1%未満となり,助産師が取扱う分娩のほぼ全てが病院・診療所での分娩である(厚生労働省,2017c).
開業助産師の役割の変遷を見てみると,1945年頃の開業助産師は,自宅への出張分娩や,自らが開業した助産所で分娩を介助し,分娩のほとんどを開業助産師が地域で取扱っていた.また,その時代の開業助産師は,女性の地位が低い時代背景の中でも地域の人々に敬われており,地域の住民として地域の環境や家族とのつながりを大切にして,自らの役割を果たしてきたことが明らかになっている(杉山,2010).
厚生労働省,衛生行政報告例によると,2011年,全国に助産所は,2,793施設存在し,そのうち分娩を取扱わない助産所は,2,319施設(約83%)であった(厚生労働省,2012).2016年では,全国に助産所は,2,872施設存在し,そのうち分娩を取扱わない助産所は2,523施設(約87.8%)であった(厚生労働省,2017a).これらより,分娩を取扱う助産所数に対する分娩を取扱わない助産所数の割合が増加傾向にあることがわかる.少子化の進行や,ハイリスク分娩が増加している社会背景を考慮すると,助産所で取扱うことが可能な分娩は減少していると推察され,嘱託医師・嘱託医療機関を定める必要がない,分娩を取扱わない助産所(医療六法,2011)の割合が増加していると考えられる.
日本助産師会ホームページを参考に,分娩を取扱わない助産所での開業助産師の活動内容を検索すると,妊娠期ではマタニティヨガや母親学級,両親学級の開催,産褥期では母乳相談や育児相談,ベビーマッサージなどの活動がある(日本助産師会,2020).分娩を取扱わない開業助産師は,妊娠期からの支援や分娩後の育児支援等,分娩介助以外の活動を通じ地域にいる母子を支援している.しかし,地域の母親に対する開業助産師の知名度は低く,活用されていない現状がある(石原ら,2015).
2015年に始められた,母子の健康水準を向上させるための国民運動「健やか親子21(第二次)」では,「切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策」が推進されている(厚生労働省,2015).また,助産師の職能団体である日本助産師会では助産師の役割・責務として,妊娠期から一貫して母子とその家族に対する健康の支援を行うことを記している(日本助産師会,2010).国の政策や日本助産師会の方針でも,妊娠期から育児期へ一貫した切れ目ない支援の推進に取り組んでいると言える.
石原らは,助産師が考える子育て支援への課題として,助産師は母子の生活基盤である地域に向けて活動を広げ,子育てに関する専門職と連携を図り,質の高い支援を提供する必要があると述べている(石原ら,2015).本来,母子に最も支援が必要となるのは,妊娠中や分娩後の地域を基盤とした生活の中であり,地域で問題を抱える母子のために,専門職である助産師からの支援が必要であると考える.
現在,少子化は進行しているが助産師の数は増加している.また,助産所のうち,分娩を取扱わない助産所の割合も増加している.これらから,分娩を取扱わない開業助産師は,分娩を取扱うこと以外で,地域で助産師としての専門性を発揮することが求められると考える.しかし,分娩を取扱わない助産所の活動の実態は,地域社会にも助産師自身にもあまり認知されていない現状がある(石原ら,2015).
そこで,本研究により,分娩を取扱わない開業助産師の活動に対する思いを明らかにすることは,今後,助産師が地域で担う役割について検討する基礎資料となると考える.さらに,開業助産師の存在が母親のみならず,広く地域社会の認識を高めることに繋がり,地域で母子やその家族が抱える問題解決へ寄与できると考える.
分娩を取扱わない開業助産師の活動に対する思いを明らかする.
:助産師は医療法に規定される医療機関である「助産所」を開業できる権利を持つ(日本助産師会,2012).医療法では,助産所とは助産師が公衆又は特定多数人のためその業務(病院又は診療所において行うものを除く)を行う場所を言い,助産所は,妊婦,産婦,または褥婦10人以上の入所施設を有してはならない.また,助産所は助産師でないものが開設することも可能であるが,助産師でないものが助産所を開設しようとするときは,開設地の都道府県知事の許可を受けなければならないと記されている.さらに,助産所には分娩を取扱う助産所と分娩を取扱わない助産所が存在する.そして,助産所の開設者は,嘱託医師を定めて置かなければならないが,分娩を取扱わない助産所については,嘱託医師及び嘱託医療機関を確保しなくても良い(医療六法,2011).2016年,全国には2,872件の助産所が存在し,そのうち,2,523件(約87.8%)が分娩を取扱わない助産所である(厚生労働省,2017a).本研究では,助産所の開設者であり,その助産所で分娩を取扱わずに活動する助産師を,分娩を取扱わない開業助産師として定義する.
2) 分娩を取扱わない開業助産師の活動に対する思い:広辞苑によると,「思い」とは,思う心の働き,内容・状態,物事から自然に感じられる心の状態,その対象について心を働かせることとある(広辞苑,2018).この広辞苑に記された意味を参考に,本研究では,分娩を取扱わない開業助産師の活動に対する思いを,地域活動を継続してきた中で感じた心を働かせるような内容や状態として定義する.
2. 研究デザイン半構造的面接法による質的帰納的記述的研究である.本研究は,開業助産師の活動に対する思いを包括的に理解したい為,質的記述的研究とした.谷津は,質的記述的研究は,研究参加者の経験を,研究参加者の語った言葉を使って解釈し記述することで,研究参加者の経験に近づくことができると述べている(谷津,2016).本研究では,開業助産師の語りやふるまいからなるべく離れず,推論をできるだけ少なくして,出来事を忠実に解釈し内容の分析をした.
3. 研究対象者の選択基準四国管内,A県およびB県で分娩を取扱わない助産所を開業する助産師10名とする.対象者の選択基準は,病院・診療所での就業経験が5年以上ある中堅以上の助産師で,なおかつ,分娩を取扱わない助産所を開業後5年以上経過した助産師を研究の対象者とした.また,本人が「助産所開設者」(医療六法,2011)でない助産所等で勤務する助産師,分娩を取扱わない有床助産所の助産師,助産所開業当初は分娩を取扱っていた助産師は除外した.
4. 対象者の選定方法四国管内,A県およびB県の助産師会会長に連絡を取り,本研究の選択基準に合う助産師の紹介を受けた.さらに,紹介された分娩を取扱わない助産所を開業する助産師に対し,研究の主旨を説明し,研究への協力を依頼した.同意の得られた助産師10名を選定した.
5. 調査方法調査期間は,2018年6月~9月である.選定された対象者に研究の目的,方法,研究の参加は任意であることなどについて説明し,研究の参加への同意を得た.インタビューの場所は静かでプライバシーが確保できる場所を研究対象者と共に決定した.文書への署名により同意を得た後,フェイスシートへの記載を依頼し,インタビューガイドに基づく半構造化面接を実施した.インタビューの所要時間は,30~60分程度とした.また,インタビュー内容は対象者の同意を得てICレコーダーに録音した.
6. 調査内容対象者の属性(年齢,家族構成,助産師経験年数,病院・診療所での勤務期間,助産所開業日,助産所での業務内容,主な活動地域)については,フェイスシートへの記入を依頼した.インタビュー内容は,1)いつ頃開業しようと考えましたか,2)開業しようと思ったきっかけはどういうものでしたか,3)開業にあたり分娩を取扱わないことを決めたのはどのような理由からですか,4)開業後,印象に残っている体験について教えてください,5)今話してくださった,経験・体験が,助産師として今のあなたにどのように影響していると思われますか,6)開業助産師としての体験から,新たな課題や,今後の活動について考えておられることがあればお話ください,の6項目とした.
7. データの分析方法本研究は,以下の通りに質的帰納的に内容の分析をした. 研究における真実性の確保として,研究者によってかかるバイアスを最少にするために,インタビューガイドを作成した.研究対象者に,逐語録を基に作成したコードの確認を依頼し,真実性の確保に努めた.さらに,コード化した内容を,意味の類似性に基づいて分類し,助産師の語りに忠実であることを意識しながら,サブカテゴリー化した.サブカテゴリーの意味が同質のものをグループに分類し,「開業助産師の活動に対する思い」として表現されるよう検討し,カテゴリーを生成した.そして,カテゴリー間の関連性について,「開業助産師の活動に対する思い」として記載した.また,その内容は,大学院生,修了生および教員間で討議をした.なお,討議中に知り得た情報や使用したデータについては外部に持ち出さず,使用したデータは討議終了後その場で破棄した.さらに,質的研究に精通した指導教員にスーパーバイズを受けながら真実性の確保に努めた.
8. 倫理的配慮本研究は,香川大学医学部倫理委員会の審議により承認(受付番号,平成30-010)を得て実施した.研究対象者には,研究の背景,目的,意義,研究方法,研究期間,プライバシー・匿名性・秘密確保の権利,全過程において途中で研究協力を辞退することも可能であること,また,途中で辞退しても不利益を被らないことを口頭と文書で説明し,同意を文書で取得した.
インタビューの得られた研究対象者10名を分析の対象とした.研究対象者の平均年齢は,58.7(±9.1)(43-71)歳で,助産師経験年数の平均は,33.5(±8.8)(18-45)年であった.また,病院・施設での勤務年数の平均は,17.4(±9.6)(5.5-34)年であった.そして,助産所開業時の平均年齢は,42.5(±9.3)(30-57)歳で,現在の助産所継続年数の平均は,16.2(±7.8)(9-31)年であった.さらに,研究対象の助産所の施設名称として「助産所」や「助産院」を使用している助産所は5施設,その他「母乳育児相談室」や「育児サポート」等を使用している助産所は5施設あった.助産所での主な活動内容のうち,全研究対象者が母乳相談・育児相談を実施していた.行政からの委託である新生児訪問は8名が実施していた.その他の活動として,ベビーマッサージやヨガ,分娩前教室はそれぞれ4名が実施していた.産後ケア事業を実施している助産師は2名,生徒や学生へのいのちの授業を実施している助産師は2名であった.骨盤ケアを実施している助産師は1名であった.インタビュー回数は全員1回であり,インタビュー平均所要時間は,56.8分であった.研究対象者の概要は,表1に示した.
年齢 | 助産師経験年数 | 病院・診療所勤務年数 | 開業時の年齢 | 助産所継続年数 | 助産所の施設名称(○○は固有名詞) | 主な活動内容 | 配偶者 | 子の数 | インタビュー時間(分) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
母乳相談 | 育児相談 | ベビーマッサージ | ヨガ | 骨盤ケア | 産後ケア事業 | 新生児訪問 | 分娩前教室 | 病院パート勤務 | いのちの授業 | ||||||||||
A | 60代 | 39 | 26 | 47 | 14 | ○○母乳育児相談室 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 2 | 69 | ||||
B | 50代 | 28 | 8 | 32 | 20 | ○○助産師相談室 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 2 | 43 | ||||
C | 60代 | 43 | 28 | 51 | 15 | 育児サポート○○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 3 | 55 | |||||
D | 60代 | 36 | 25 | 55 | 11 | ○○母乳・育児相談室 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 3 | 37 | ||||
E | 50代 | 25 | 16 | 42 | 9 | 助産所○○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 2 | 56 | ||||||
F | 60代 | 45 | 34 | 57 | 11 | ○○母乳育児相談室 | ○ | ○ | ○ | あり | 2 | 76 | |||||||
G | 60代 | 38 | 5.5 | 30 | 31 | ○○助産所 | ○ | ○ | なし | 0 | 50 | ||||||||
H | 40代 | 23 | 14 | 39 | 9 | ○○助産院 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 3 | 60 | |||
I | 70代 | 40 | 10 | 41 | 30 | ○○助産院 | ○ | ○ | なし | 1 | 72 | ||||||||
J | 40代 | 18 | 7 | 31 | 12 | ○○助産院 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | あり | 3 | 50 |
10名のデータを分析した結果,19サブカテゴリー,5カテゴリーが抽出された.以下,【】は,カテゴリー名を表す.
分娩を取扱わない開業助産師は,【母乳ケアならできる】という気持ちで助産所の開業を決心していた.開業してみると,病院ではできなかった【じっくり関わり母親に寄り添う】や,【母親に支えられ助産師として地域で活動する】ことを実感していた.さらに,開業助産師一人で関わる不安や迷いの経験から,地域で【多職種との連携で安心する】ことを痛感していた.そして,今後も【今の生活ペースで続ける】ことを望んでいた.
次に,カテゴリーとサブカテゴリーについてデータを挙げて説明する.以下,≪≫にサブカテゴリー名と,「」に特徴的な語りを斜体で表す.カテゴリーとサブカテゴリー一覧は表2に示す.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード |
---|---|---|
母乳ケアならできる | 母乳ケアならできないことはないという思いがあり,自分でなんとかしようとした | 母乳ケアはできないことはないという気持ちがあり,おっぱいで困っている人は何があっても断らずに行くようにした. |
開業した時点で自分で勉強するしかないと思っていたが,地域でも相談できる先輩助産師はたくさんおり困ることはない. | ||
よほどの事例は開業している先輩助産師に相談することもある. | ||
助産師は自分の考えが強いので,自分でなんとかしようとするところがあり,他の開業助産師への相談はよほどの時だけである. | ||
自分一人で考えた理論だけではいけない時があり,助産師会や経験のある先輩に聞くのが一番である. | ||
自分のやる気だけで押しつけていたところもあったが,最近は自分を出すのを控えている. | ||
病院は辞めたがやっぱりどうしようという思いがあり,危機管理や施設を準備するパワーはなく,おっぱいのことならできるのではと助産師会に開業をすすめられた. | ||
自律した助産師に憧れがあった | 病院を辞め,のんびりしたい気持ちもあったが先輩助産師の活躍をみて開業しようと考えた. | |
学生の頃から自律した助産師に憧れており,開業したいと思うようになった. | ||
助産学校の頃から先生に開業をすすめられ,先輩助産師からも助産師は開設者になって動くことも必要であると教えられた. | ||
乳房ケアの研修に行く為に病院を辞め,研修に行ったことで,開業しないと自律したケアはできないと思い開業を考えた. | ||
学生時代に見た雑誌の特集で地域で働く開業助産師を認識し,いつか自分も開業助産師として働きたいと思っていた. | ||
開業するということは助産師として独立するということであり,良い方向であったと思う. | ||
子育てや生活スタイルが合わず病院勤務に限界を感じていた | 家庭の事情で病院は辞めざるを得ず,まだお産を取りたいと思い個人病院で働いたが,良いと思いやったことを医師から否定されたことへ葛藤があり,開業しようと思った. | |
病院の閉院に伴う転勤はしんどいと思い,退職した時に迷わず開業を考えた. | ||
知人の子どもがノイローゼになったのを目の当たりにして,病院は居る意味がないと思って辞めた. | ||
3人で200例のお産を昼も夜もなく見てきて,身体がもたず,もうやってられないと思い病院を辞めた. | ||
3人の子育てをしながらフルタイムの病院勤務に限界を感じ,退職と同時に開業しようと思った. | ||
空き部屋1つあれば開ける,最初からあるものでできるならという軽い思いで始めた. | ||
子どもを保育園に入れるために仕事が必要だったので仕方なく開業届を出した. | ||
これまで,人工妊娠中絶の介助をしなくて良い病院を選んできたが,そのことを考えて病院を探すのも嫌だったこともあり,開業した. | ||
母乳で育てて欲しい気持ちがあり,開業するなら母乳と決めた | 若い頃から母乳ケアには興味があり,母乳相談で開業したいと思い勉強した. | |
とにかく母乳で育ててほしいという気持ちがあり,病院の一か月健診での母乳率の低さと,母乳育児の相談相手が助産師ではないことから,これではいけないと一念発起した. | ||
お母さんたちの役に立ち,自分も楽しめることをしようと思い開業した. | ||
授乳は赤ちゃんの健康だけでなく,女性の健康のためにも必要だと思い,開業してこれをやっていかないといけないと思った. | ||
効果のない乳房ケアに悩んでいたが,研修の内容に衝撃を受け,開業するときは母乳と決めて本腰を入れてやろうと思った. | ||
設備やサポートが整わないとお産を取扱うことは現実的に無理である | 開業届は出しているが活動は新生児訪問や育児相談で,リスクの高い分娩の取り扱いは全く考えなかった. | |
お産をとることは設備と責任の面から自分で行うのは無理である. | ||
お産の取り扱いは,夫からも反対され,自分の生活スタイルやサポートが整わないと現実的に難しい. | ||
お産を取扱うことは,いつも待機しておかないといけない状況で家族を犠牲にすることにもなるので,お産は取扱わずに今は子育てを優先している. | ||
じっくり関わり母親に寄り添う | 助産師の存在を知ってくれて,次世代へ繋がり家族ぐるみで繋がる喜び | 産後入院中困らないために,パパママ教室でお乳の話をすることを通して,自分の存在を知ってくれ,お乳の相談は助産師にしたいと言う地域のお母さんとつながっていった. |
お母さんは心のよりどころとして助産師を求めており,繋がりは喜びでもあり責任でもある. | ||
病院では時間におわれており,その人の為に徹底的に考えることはできないが,地域では家族ぐるみでつながりがもてることが魅力である. | ||
以前乳房ケアしたお母さんの娘が来てくれることもあり,次世代につながることが嬉しい. | ||
母親の気持ちを一番に考えて寄り添いたい | 6か月ケアを続けたが,お乳を辞めることになった時はそれほど辛くよくがんばったんだなと思い,印象に残っている. | |
何度も(乳房)トラブルを起こしたがケアを続け,卒乳まで見ることができた. | ||
おっぱいだけではない悩み聞いたり,お母さんの気持ちを大事にして継続してみることができる. | ||
お母さんの気持ちを一番に考えて寄り添っていたい. | ||
誰にも相談できないのが一番問題で,地域で育児相談で何とかしてあげたいと思った. | ||
新生児訪問で大変だと分かっているお母さんを放ってはおけず,夫の協力でベビーマッサージのサークルをボランティアで始めた. | ||
地域のお母さんは支えてくれる人が欲しいと思っており,一か月健診以降どうつなげるかを病院の助産師も考えて欲しい. | ||
お母さんが気持ちが良いことは,赤ちゃんも気持ちが良いを伝えていきたい. | ||
虐待の問題では子どもたちが注目されがちであるが,お母さんたちのSOSに気付き,支えていきたいという気持ちがある. | ||
喜んでもらえると嬉しく自分にも良い影響を与えてくれる | お母さんとの関わりで,喜んでくれると嬉しいという気持ちは,自分に良い影響がある. | |
(自分の住んでいる町は全部訪問し)お母さんの気持ちを楽にしてあげることができる母子訪問は私に合っている. | ||
新生児訪問は喜んでもらえて笑顔が返ってくることに癒される. | ||
新生児訪問は保健師や色んな人の目でみて助けてあげられることが楽しい. | ||
母乳哺育が好きで辞めようと思ったことはなく,お母さんがいきいきとおっぱいを飲ませているのを見るのはの楽しい. | ||
病院では一人にじっくり関われないが,今は気持ちに余裕ができ改めて助産師は魅力的な仕事だ気付いた | 病院勤務でみることができるのは最初の一週間であり,継続した乳房ケアを実施したい. | |
病院勤務では一人ひとりにじっくり関われない葛藤があった. | ||
病院では時間に追われていたが今は気持ちに余裕ができ,助産師は魅力的な仕事だと思う. | ||
開業所助産所ではゆっくり話しができることが魅力である. | ||
母親に支えられ助産師として地域で活動する | 時間や経済的な余裕がないと,地域で助産師が開業することは難しい | 助産師はプロとして働くならお金をとらないといけないとは思うが,自分はお金は生きていけたら良いと思っており,ボランティアで訪問することもあった. |
先輩助産師がお金をとらないので私もとれず,ボランティアで訪問した. | ||
料金や曖昧だった部分の説明が今後の課題であり,母子訪問だけでは時間や経済的な余裕がないとできない. | ||
助産所に来るお母さんは1回で終わる人が多く,経済的には成り立たない. | ||
病院勤務よりは収入が減るので,地域で助産師が開業することは二の足を踏むところだと思う. | ||
開業助産師どうし話ができる場所や,仕事を紹介するシステム作りをしていきたい | 助産師会として,助産師どうしの話しができる場づくりや,地域での仕事を紹介するシステムづくりをしていきたい. | |
地域の助産師を増やしていきたいという夢があり,そのための活動支援や開業助産師どうしがつながる場所を作っていきたい. | ||
母親の評判がないと続かないと感じる | 「私は開業助産師」という気持ちがあり,最初は名刺を配ったりインターネットに掲載した. | |
積極的な宣伝はしておらず,お母さんどうしの口コミでないと続かないと感じている. | ||
宣伝はしていないが,助産所に来るお母さんは口コミが一番多い. | ||
特に宣伝はしていないが現在はSNSで助産所の情報を発信している. | ||
助産師として必要とされていると感じ,活動している | お母さんたちが来てくれるので,迷いながらも活動が継続できている. | |
一人目の出産の時の乳腺炎で上手くいかず断乳したが,2人目の出産でも,私にお乳を見てもらいたいと呼んでくれた. | ||
多職種との連携で安心する | 母乳ケアには責任があり,一人でみる不安や病院への連携するタイミングを迷うこともある | 紹介状は用意しているが,病院へ行くいかないはお母さんが判断するのでなかなか紹介状を渡す機会がない. |
病院に紹介するタイミングがこれでよかったのかと迷うこともある. | ||
病院しか知らなかったので,地域では生活の場に入っていくことになり,自分のケアが1回きりになることに不安もある. | ||
母乳ケアには責任があり,一人の考えではなく,色んな人がケアに関わるほうが良いと思う. | ||
信頼できる医師が近くにいることは安心できる | 信頼関係ができている医師がいるので安心してできる. | |
嘱託医との関係性は良く,協力的であり,医師の処置後も母乳育児を続けることができている. | ||
病院と助産所のつながりがないので,紹介状を書いたほうが良い. | ||
開業助産師だけでは継続した関わりはできず,保健師に繋ぐ | 地域につなげず自分だけで抱えてしまったことや,音信不通となりその後のことが分からず気になっている事例があり,地域への連絡や連携が課題である. | |
新生児訪問では関係が途切れてしまうこともあり,その後関われないお母さんは保健師に連絡する. | ||
訪問は保健師がやるので助産師の力は必要ないと言われ助産師会は(母子訪問活動へは)入っていけないが,お乳のケアは助産師会にお願いされており,保健師との関係性は昔に比べたら身近に感じる. | ||
私たちが行く母子訪問は2回までで,問題のある人は保健センターに連絡し保健師に任せている. | ||
保健師とはお互いに気になるケースは連絡しあい,繋がりを持っている. | ||
今の生活ペースで続ける | 家族の協力で活動を継続することができている | 夫はみんなのために色々やるのを良しとする人で,母も協力的だったので続けることができた. |
夫は協力的であり,助産所の経営面をみてくれて助かった. | ||
夫とは責任を持ち助産所をやっていることが分かってもらえず喧嘩になることもあったが,新しい助産所の建設はいつかやると思っていた,と言って理解してくれている. | ||
娘が妊娠し新しい役割ができたので,今請け負っている仕事を調整している. | ||
親が高齢になったので,助産所を閉所し田舎で自分ができる活動を続けたい. | ||
好きだから続けることができているが,病院に定年があるようにどういう形で終わろうかと考える. | ||
辞めようと思ったことはなく,今の自分の生活ペースを大切にしたい | 自分の子育てでおっぱいがやれなかったのは心残りだが,夫と義母の協力で2人の子どもが育ちこれでよかったと思っている. | |
母乳外来が増えたことで乳腺炎は減った印象があり,どうしても母乳でないといけないという考えではなく,楽しいおっぱいを伝えていきたい. | ||
心の中までさらけだせるような人はいないが,辞めようと思ったことはなく,お乳を飲んでいる赤ちゃんの顔やコクコクという音が私の原動力となり,今のペースで続けられるまで続けようと思っている. | ||
名刺を配り広報したり,儲けもなくしんどかったが,これが私のスタイルだと感じ,もうこれでいこうと思った. | ||
今は一歩引いて関わり,生活を大切にしたいと考えているが,一番楽しいおっぱいのことは無理せず自分のペースで続けて行きたい. | ||
将来的にはボランティアであってもおっぱいケアだけは続けて行きたい. | ||
病院時代と同様に,流れに任せて好きなことを自分のペースで続けていきたい. | ||
助産師は女性の幸せを手伝う仕事であり,続けられるだけは続けたい | 開業だけで食べていくのは無理であるが,地域を開いてきた先輩たちから自分が受け継いだものを次は若い人に渡したい. | |
「一生死ぬまで助産師」という先輩の言葉に心を打たれ,助産師は女性の幸せを手伝う仕事であり,続けられるだけは続けたい. | ||
妊娠出産に関わらず,あらゆる世代の女性が集まれるような助産所を作りたいという夢がある. |
以下に各カテゴリーについて,具体例を示して述べる.
1) 【母乳ケアならできる】分娩を取扱わない開業助産師は,学生の頃に自律した助産師と出会った経験や,地域で活躍する先輩助産師に影響を受け,助産師として自律したいと考えるようになった.また,育児をしながらの交代勤務や過酷な勤務体制に心身の限界を感じて病院・診療所を退職し,助産所の開業を考えるようになった.そして,助産所を開業することは,助産師として自律することへ繋がると考えた.そこで,母乳ケアならできるという自信や母乳ケアへの熱心な思いから,お産ではなく,母乳ケアでの開業を決めたことを意味する.これらは,≪母乳ケアならできないことはないという思いがあり,自分でなんとかしようとした≫,≪自律した助産師に憧れがあった≫,≪子育てや生活スタイルが合わず病院勤務に限界を感じていた≫,≪母乳で育てて欲しい気持ちがあり,開業するなら母乳ケアと決めた≫,≪設備やサポートが整わないとお産を取扱うことは現実的に無理である≫の5つのサブカテゴリーで構成された.
① ≪母乳ケアならできないことはないという思いがあり,自分でなんとかしようとした≫「助産師ってね,自分が強いですもん.だから自分でなんとかするとこがあるのでね,よっぽどですね.」(G氏)
② ≪自律した助産師に憧れがあった≫「実習に行った先の助産師さんも,開業助産師さんもかっこいいな,と思って.とにかく自律していた.」(B氏)
③ ≪子育てや生活スタイルが合わず病院勤務に限界を感じていた≫「色々工夫しながら勤務を続けていたのですが,3人目が生まれて,ああもう限界だな,と.病院のフルタイムの夜勤するのはちょっとできない.」(H氏)
④ ≪母乳で育てて欲しい気持ちがあり,開業するなら母乳ケアと決めた≫「とにかく母乳で育てて欲しい,母乳で育てたいと思っているお母さんに進んで欲しいという気持ちがあった.」(B氏)
⑤ ≪設備やサポートが整わないとお産を取扱うことは現実的に無理である≫「お産をとるって言うのはね,本当に責任がいることだし,それだけの設備を構えないといけないでしょ.設備の面からも責任の面からも自分では無理だと思ったので.」(G氏)
2) 【じっくり関わり母親に寄り添う】地域では家族ぐるみの繋がりが持て,世代間でも繋がりを持つことができていた.また,病院・診療所勤務では時間に追われており,一人の母親とじっくり関わることは難しいが,地域では母親の気持ちを大事にしながら時間をかけてケアができることに喜びを感じ,母親の気持ちに寄り添うことができると感じていた.そして,実施した母乳ケアや育児相談に対し,間近に母親が喜んでくれるのを感じ,自分へも良い影響を与えてくれていると感じていた.さらに,じっくり関わり母親に寄り添うことで,地域で助産師としての専門性が発揮できていると実感していったことを意味する.これらは,≪助産師の存在を知ってくれて,次世代へ繋がり家族ぐるみで繋がる喜び≫,≪母親の気持ちを一番に考えて寄り添いたい≫,≪喜んでもらえると嬉しく自分にも良い影響を与えてくれる≫,≪病院では一人にじっくり関われないが,今は気持ちに余裕ができ改めて助産師は魅力的な仕事だと気付いた≫の4つのサブカテゴリーで構成された.
① ≪助産師の存在を知ってくれて,次世代へ繋がり家族ぐるみで繋がる喜び≫「これだけ長いと,ここへ来ていたお母さんの娘さんがまたいらっしゃるんですよ.それは嬉しいですね.次の世代っていうのが.孫を見ているような感じです.」(G氏)
② ≪母親の気持ちを一番に考えて寄り添いたい≫「地域に出たお母さんがどれだけ大変か.支える人も欲しいんや,って.何かあったら言っておいで,ってそれだけでもお母さんは救われる.」(E氏)
③ ≪喜んでもらえると嬉しく自分にも良い影響を与えてくれる≫「新生児訪問は喜んでもらえて笑顔が返ってくることに癒される.」(F氏)
④ ≪病院では一人にじっくり関われないが,今は気持ちに余裕ができ改めて助産師は魅力的な仕事だと気付いた≫「辞めたら辞めたでも,助産師としてやれることはあるな,助産師って魅力的な仕事だな,って思いますね.」(C氏)
3) 【母親に支えられ助産師として地域で活動する】分娩を取扱わない開業助産師は,母乳ケアや育児相談を実施しているが,その活動だけでは安定した収入を得ることが難しく,経済的な余裕がないと助産所を継続していくことは難しいと感じていた.しかし,以前利用した母親から良い評価を得ることができ,母親から知り合いの母親へと開業助産師の良い評判が口コミで広がり,地域の母親に支えられて,助産師として活動できていることをありがたく感じていることを意味する.これらは,≪時間や経済的な余裕がないと,地域で助産師が開業することは難しい≫,≪開業助産師どうし話ができる場所や,仕事を紹介するシステム作りをしていきたい≫,≪母親の評判がないと続かないと感じる≫,≪助産師として必要とされていると感じ,活動している≫の4つのサブカテゴリーで構成された.
① ≪時間や経済的な余裕がないと,地域で助産師が開業することは難しい≫「勤務時代とは違いまして,そこが一番,地域で開業できるかどうかの,みんな二の足を踏むところです.」(J氏)
② ≪開業助産師どうし話ができる場所や,仕事を紹介するシステム作りをしていきたい≫「地域で助産師ってどうやって働いていいのか分からない方もいらっしゃるじゃないですか.病院を辞めても,仕事はあるよ,っていう.地域で働けるような仕事のシステムになったらいい.」(H氏)
③ ≪母親の評判がないと続かないと感じる≫「最初もなかったし,今もあんまり宣伝してないです.口利きですね,みんな.」(I氏)
④ ≪助産師として必要とされていると感じ,活動している≫「2人目を出産された時も私を呼んでくださって.あぁ良かった,悪いイメージはもたれてなかったのだな,良かったなって思いました.」(B氏)
4) 【多職種との連携で安心する】分娩を取扱わない開業助産師は,母乳ケアならできるという思いがあった.しかし,自信のある母乳ケアでも,一人で判断することへの不安や迷いを感じていた.一方で,信頼できる医師が近くにおり連携することで安心していた.また,開業助産師が,母乳ケアや育児相談で気がかりな母親と出会った際に,行政の立場から継続して関わることのできる保健師と連携することは安心でき,多職種連携の必要を痛感していることを意味する.これらは,≪母乳ケアには責任があり,一人でみる不安や病院へ連携するタイミングを迷うこともある≫,≪信頼できる医師が近くにいることは安心できる≫,≪開業助産師だけでは継続した関わりはできず,保健師に繋ぐ≫の3つのサブカテゴリーで構成された.
① ≪母乳ケアには責任があり,一人でみる不安や病院へ連携するタイミングを迷うこともある≫「本当に病院の中しか知らなかったわけですから.母乳ケアも1回きりだと,その後を診ることができないという不安.自分がケアした後が分からない.1回きりですよね,だいたい.」(D氏)
② ≪信頼できる医師が近くにいることは安心できる≫「小児科の先生も産婦人科の先生もいるからすごく安心.すぐに診てくれるから安心できる.」(A氏)
③ ≪開業助産師だけでは継続した関わりはできず,保健師に繋ぐ≫「気になることは市町村の保健師さんに連絡しています.開業した当初から保健師さんとは繋がりがあるので,お互いに.保健師さんからも教えてもらいます.」(J氏)
5) 【今の生活ペースで続ける】地域で生活する住民として,自分の生活と開業助産所の活動や地域での母子保健活動を,自分の生活ペースとして捉え,大切にしていきたいと考えている.そして,助産師は分娩を取扱うだけではなく,女性の幸せを手伝う仕事であると認識しており,地域に根差した開業助産師として続けていきたいと思っていることを意味する.これらは,≪家族の協力で活動を継続することができている≫,≪辞めようと思ったことはなく,今の自分の生活ペースを大切にしたい≫,≪助産師は女性の幸せを手伝う仕事であり,続けられるだけは続けたい≫の3つのサブカテゴリーで構成された.
① ≪家族の協力で活動を継続することができている≫「やっぱり支えがあったからかな.母も手伝ってくれたのもあるし,そこは続けることができたかな.」(E氏)
② ≪辞めようと思ったことはなく,今の自分の生活ペースを大切にしたい≫「辞めようと思ったことはなく(中略)お乳を飲んでいる赤ちゃんの顔やコクコクという音が私の原動力となり,今のペースで続けられるだけ続けようかなとは思っています.」(B氏)
③ ≪助産師は女性の幸せを手伝う仕事であり,続けられるだけは続けたい≫「助産師っていうのは,やっぱり女性の身体から心から全てを幸せに向かってお手伝いするような仕事だから.そう思ってね.できる範囲で続けたいとは思います.」(F氏)
先行研究では,助産師は,地域の人々の生活に密着し,保健・衛生の啓蒙に継続的に関わっていたこと(杉山,2010)や,助産師は助産所を開設した地域の一住民として,地域の活動に参加することによって社会的信用を得ていた(谷口ら,2011).これは,分娩を取扱わない開業助産師が,【じっくり関わり母親に寄り添う】を誠実に実践することで,母親やその家族と信頼関係が構築され,社会的信用を獲得し活動ができることと同様の結果と考える.また,助産所の活動だけでは,経済的に難しい現状がありながらも,母親が良い評判として自分の実施した助産ケアを評価してくれているからこそ,活動ができていると実感していた.そして,開業助産師の良い評判が,母親から母親へ伝聞されており,そのことをありがたく感じ,【母親に支えられ助産師として地域で活動する】の思いに至ったと考える.このような思いが表出されるのは,地域の一住民として,助産師という専門職として,地域で分娩を取扱わなくとも,開業助産師としての社会的信用を得ているからこそだと考えられ,分娩を取扱わない開業助産師の活動に対する思いの一要因になると考える.
対象者の助産所継続年数は平均16.2年であり,助産師継続年数の約半分であった.このことから,長期に渡り開業助産師として活動を継続できていることが分かる.分娩を取扱わない開業助産師は,今の生活ペースで続けること望んでおり,「一生死ぬまで助産師という先輩の言葉に心を打たれた」と語る助産師もいた.これは,年齢に合わせて活動内容を変化させながら,今後も助産師であり続けたいという思いであり,開業助産師は,自らもこのようにありたいと望んでいると推察される.
また,望月は,助産院で働く助産師の職業意識として,経験を積み重ねながら効果的なケアを追求することで,助産師としてのアイデンティティが深まる.そして,仕事に対するやりがいは,職業意識を高め助産師活動の質の向上に影響を与えると述べている(望月,2010).分娩を取扱わない開業助産師は,「辞めようと思ったことはなく(中略)お乳を飲んでいる赤ちゃんの顔やコクコクという音が私の原動力」と語り,自分が実施したケアの効果を身近に感じることで,開業助産所の活動にやりがいを感じていると言える.また,「妊娠出産に関わらず,あらゆる世代の女性が集まれるような助産所を作りたいという夢がある」の語りからも,開業助産師が,地域の母子を対象とした活動のみならず,あらゆる世代の女性を対象とした助産所作りをめざして活動することは,今後,助産所の質の向上に繋がると考える.
2. 助産師が地域で担う役割分娩を取扱わない開業助産師は,地域活動として全員が母乳ケアを実施していた.ケアに対する思いとして,「病院勤務では一人ひとりにじっくり関われない葛藤があった」と語る者もいた.先行研究において,小泉らは,開業助産師は病院勤務において理想とするケアができないはがゆい経験をしていたと述べており(小泉ら,2013),この思いは本研究対象者の思いと同様で,開業助産師は病院勤務時代には,自らの信念に基づいたケアができない葛藤があったと考えられる.そして,【じっくり関わり母親に寄り添う】の思いからは,分娩を取扱わない助産所を開業したことにより,病院勤務ではできなかった,母乳育児の確立へ向け継続した支援を実践できていることが分かる.母乳育児が確立することは,その後の育児に向けて母親が安心できる要因であり,産後の精神状態の安定に影響する.笹野らは,産後うつを予測した妊産褥婦へのケアは,継続的な関わりの中で心に寄り添い,苦しみから解放し,母として自信をつける働きかけにより提供されると述べている(笹野ら,2017).すなわち,開業助産師がじっくり関わり寄り添って地域で母乳ケアを実践することは,産後の母親の精神状態安定に影響を与え,産後うつの予防や虐待リスクの軽減へ寄与できると考える.
現在,全国の市町村で産後ケア事業が展開され,病院・診療所を退院後の母子への支援として整備されている.産後ケア事業は,出産後に助産師から心身のケアや育児支援が受けられる仕組みであり,宿泊型,日帰り型,助産師が自宅に出向いてケアをするアウトリーチ型が展開されている(厚生労働省,2017d).しかし,産後ケア事業の問題として,居住する市町村で産後ケア事業を実施している施設がなく,他の自治体へ自費で産後ケアを受けに行く母子もいることが挙げられる.
そして,開業助産師はこの産後ケア事業の活動を担うことができ,分娩を取扱わない開業助産所では,自らの助産所を利用した日帰り型の産後ケア事業や出張ケアであるアウトリーチ型の産後ケア事業の活動を実践することもできる.母親にとって,産後ケアによって始まった助産所助産師との関係は,妊娠期からの継続でもなく,分娩をともに経験した助産師でもないゼロからのスタートである(稲田ら,2020).産後ケア事業に関わる助産師は,助産師としての経験や専門知識から,利用する褥婦の妊娠期や分娩期を知らなくとも分娩を終えた女性の心身がどのような状態であるかが分かり,ケアが実践できると推察される.また,心身状態だけでなく,家族背景や夫婦関係,その女性の生育歴などからアセスメントし,その場で母子を支援できることが助産師の専門性であると考える.すなわち,行政と連携し,助産師が地域で産後ケア事業に関わっていくことは,専門職として母乳育児の確立や,出産後の女性の身体の変化を考慮しながら育児支援を実施することができ,助産師が地域で担う役割の一つであると考える.
分娩を取扱わない開業助産師は,母子への妊娠期や産褥期の支援だけでなく,家族への支援も含む新生児訪問や思春期を対象に,「いのちの授業」を実施していた.また,その活動は開業助産師一人ではなく,地域にいる医師や保健師の医療職に支えられ実践できることを痛感していた.つまり,助産師は出産前後の女性のためだけではなく,家族及び地域に対しても健康に関する相談や教育に重要な役割を持っている(国際助産師連盟,2011).福島は,現代の助産所に求められる役割として,助産所こそ地域の母子保健・女性の健康支援において重要な場所であり,日本の公衆衛生活動の重要な役割を担ってきた場所であると述べている(福島,2013).本研究において,≪助産師は女性の幸せを手伝う仕事であり,続けられるだけは続けたい≫のサブカテゴリーから,分娩の取扱いや母乳ケアだけでなく,女性の幸せや健康を考えた活動も考慮されていた.すなわち,分娩の取扱いの有無に関わらず,出産前後の女性はもちろん,あらゆる女性の生涯にわたる健康に関する活動を実践していくことが,助産師が地域で担う役割に繋がると考える.
以上より,分娩を取扱わない開業助産師は,母親や地域住民に支えられ活動ができていると実感していた.これは,助産師として,地域住民として信頼を得ることができた思いである.また,開業助産師が実施する地域活動は,その効果を身近に感じることでやりがいとなり,さらに,助産所の質の向上をめざしていったと考える.分娩を取扱わない開業助産師の,病院ではできなかった母乳育児確立への継続支援と,今後のニーズが予測される産後ケア事業への取り組みは,助産師が地域で担う役割になると考える.また,出産前後の女性のみならず,あらゆる女性を対象とした健康支援は,広く地域社会における開業助産師の認識を高めることになると考える.
すなわち,助産師のこれらの地域活動は,母子への切れ目ない支援における一翼を担い,さらには女性の生涯にわたる健康支援に寄与することへ繋がると考える.
分娩を取扱わない開業助産師へインタビューを実施し,10名の分析結果より,19サブカテゴリー,5カテゴリーが抽出された.
2.分娩を取扱わない開業助産師は,病院ではできなかった,じっくり関わり母親に寄り添うことや,母親や地域住民に支えられて活動できていると実感していた.また,開業助産師は,一人で関わる不安や迷いの経験から,母親のみならず地域の多職種のおかげで安心して活動ができると痛感していた.さらに,分娩を取扱わない開業助産師は,実施したケアの効果を身近に感じてやりがいに繋がっていた.
3.開業助産師が,あらゆる世代の女性を対象とした助産所作りをめざして活動することは,母子への切れ目ない支援における一翼を担い,助産師が地域で担う役割になる可能性が示唆された.
本研究を行うにあたり,インタビューに快くお答えくださった開業助産師の皆様,ならびに研究の趣旨をご理解いただき,開業助産師の皆様をご紹介くださいましたA県およびB県の助産師会長様に深く感謝申し上げます.
本研究における開示すべき利益相反はない.
ESは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文作成を実施した.その過程において,MSからスーパーバイズを受けた.また,EIは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を受け,全ての著書は最終原稿を読み,承諾した.