日本農村医学会学術総会抄録集
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第54回日本農村医学会学術総会
セッションID: 1C01
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一般演題
富山県における農薬中毒臨床例調査
大浦 栄次澁谷 直美駒井 杜詩夫佐々木 正豊田 務
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抄録

はじめに
 富山県農村医学研究会では、農薬中毒予防に資するため、昭和63年より農薬中毒臨床例の有無を調査し、「有り」と回答のあった診療科に詳細調査票を送り、中毒の詳細内容の把握に努めている。今回、収集した症例について概要をまとめたので以下に報告する。

方  法
 1月から12月を前期、後期に分け、葉書で県内の全ての内科、小児科、外科、皮膚科、眼科、ICUを標榜する約710か所の診療科に、パラコートおよびそれ以外の農薬による臨床例の有無を往復葉書にて尋ね、症例「有り」と回答のあった診療科に、詳細報告書を送付し原因、農薬名、転帰、症状、治療経過、検査結果などの情報の収集につとめた。回収率は約3分の2である。

結果と考察
 昭和63年の調査では、思い出しとして、1980年からのもの記載してもらった。年代別では、1987年以前が21件、88-92年が91件、93-97年が83件、98-2003年46件、計241件であった。特に90年代には中毒件数が多かったが、最近は減少傾向にある。
 農薬中毒の115件、47.7%が自他殺であった(なお、他殺は2件)。次いで農薬散布中59件24.5%、準備中22件9.1%、誤飲19件7.9%の順であった。 性別では、男が47.8%、女が52.2%であり、年齢では男女とも60才代が最も多く、全体の28.9%であった。なお、50才以上は全体の71%と高齢者における中毒が多く発生している。
 原因農薬で最も多いのは、パラコート剤で全体の35.3%、次いで殺虫剤の32.5%、パラコート以外の除草剤12.9%の順である。
 特に、パラコート剤は88件中52件が自殺目的で使用されている。この薬剤は、以前グラモキソンとして販売されていた。この薬剤はパラコート24%を含み自殺者があまりにも多いということで、昭和61年に販売中止となり、その後濃度を5%に下げたプリグロックスLなどとして販売されているが、この薬剤による自殺者も未だに後を絶たない。なお、昭和61年にグラモキソンは販売中止になっているが、本県でのグラモキソンによる中毒は平成8年まで報告がある。おそらく、除草効果がいいと言うことで、販売中止直前に大量買いだめがされたものと考えられ、問題のある薬剤の回収などの処置が徹底される必要があると考えられる。
 なお、パラコート剤においては散布準備中の中毒が多く発生している。これは、希釈の際に液剤比重が重く、飛びはねて目に入ったために起こった炎症がほとんどである。
 殺虫剤の多くは有機リン剤であり、典型的なコリンエステラーゼ活性の低下などを来す症例がほとんどである。また、皮膚疾患なども多くみられる。 最後に中毒症例は少なくなったとはいえ、潜在的、慢性的症例も十分収集しきれていないと思われ、関係機関の協力が不可欠と考えられる。

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© 2005 一般社団法人 日本農村医学会
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