日本農村医学会学術総会抄録集
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第54回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2J08
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一般演題
手根管症候群の神経伝導検査におけるインチング法の有用性
近藤 真佐美
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抄録

<緒言>手根管症候群(以下CTS)はしびれ,知覚障害,夜間痛などがみられる疾患で,農作業における手指の運動過労など過度の手作業が原因の1つとして考えられている.CTSの補助的診断に電気生理学的検査が用いられ,障害部位の評価を行なうため手根管部前後の神経分節を1cm間隔で刺激し,伝導異常を検索するインチング法が知られている.今回,CTS症例のインチング法の結果をまとめ,CTSの診断におけるインチング法の有用性を検討したので報告する.
<対象および方法>2003年9月から2005年3月の1年7か月間に当院整形外科を受診し,臨床的にCTSと診断された20例20手(農業あるいは兼農業7例,会社員4例,主婦2例,土建業1例,介護士1例,裁縫1例,その他4例)男性5例,女性15例,平均年齢=62.0±11.4(SD:以下同様)歳と,健常者例19例31手,男性7例,女性12例,平均年齢=58.2±7.7歳を対象に遠位潜時(以下DML),知覚神経伝導速度(以下SCV)の測定及びインチング法を行なった.測定機器はNECサイナックス2100ER2104誘発反応測定装置を用いた.インチング法は手首皮膚線を0点として1cm間隔を1点に手掌を遠位へ-6点までそれぞれ刺激し,SNAPを記録した.各刺激点間[-6から-5],[-5から-4],[-4から-3],[-3から-2],[-から-1],[-1から0]の1cm区間毎の伝導時間を求めた.またCTS症例の伝導時間が最も長くなる区間の分布を調べた.なお,統計学的検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた.
<結果>DMLはCTS症例では平均=6.4±1.3(SD:以下同様)msecと,健常者例の平均=3.2±0.3msecに比べて遅延していた(p<0.05).導出電極と手関節部の間のSCVでCTS症例が平均=36.3±5.1m/secと,健常者例の平均=59.8±5.5m/secより低下していた(p<0.05).インチング法における各区間での伝導時間は区間[-4から-3]でCTS症例が平均=0.80±0.62msec,健常者例が平均=0.22±0.07msec,区間[-3から-2]でCTS症例が平均=0.71±0.51msec,健常者例が平均=0.23±0.11msecと2区間でCTS症例が遅延していた(p<0.05).CTS症例の中で最も伝導時間の遅延がみられたのは区間[-3から-2]で20手中10手(50%),次に区間[-4から-3]で7手(35%),区間[-2から-1]で2手(10%),区間[-1から0]で1手(5%)であった.
<考察>今回の検討でインチング法においてCTS症例は,伝達時間が遅延した区間は症例によりばらつきはあったものの,20手中18手は遅延した区間がそれぞれ1から2cmの長さに限局されており,区間[-4から-3]と区間[-3から-2]で健常者例に比べて遅延していた.このことは限局された部位での神経障害を示すものと考えられ,インチング法により限局された区間での伝導遅延を検出することがCTSの確定診断上有用であると思われた.ところで,DML,SCVに異常を認めないようなCTSの軽症例にはインチング法を追加して行なうことにより確定診断できる可能性がある.今後はこうした症例に対しインチング法を行ない,インチング法の有用性をさらに検討する必要があると思われた.
<結語>CTS症例ではインチング法において,1cm区間の伝導時間が手首皮膚線から遠位に2から4cmの区間で健常者例に比べて有意に遅延していた.

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© 2005 一般社団法人 日本農村医学会
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