日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: tokubetu1
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特別講演1
日本における大学改革の動向と農村医学会の使命
農山村僻地における地域医療再構築の戦略形成に向けて
山根 洋右
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抄録

<はじめに> 2004年4月1日、全国89の「国立大学法人」が誕生した。法人化による大学改革の方向性は、1.大学ごとの法人化による自律的研究・教育発展、2.「民間的発想」による大学経営マネージメント、3.「学外者」の大学経営参画、4.学長選考手続きの改善、5.「非公務員型」能力・業績主義人事システム、6.国民への透明性と社会貢献を志向した「情報公開と評価の徹底」に集約される。 
 医療人の教育・育成、医学研究と応用開発、医療・健康福祉による社会・国際貢献の拠点であった大学医学部の法人化は、21世紀の日本、とりわけ、農山村僻地に何をもたらすのだろうか、農山村医療福祉に永年貢献してきた日本農村医学会の新たなミッション(使命)は何か。
<大学法人化の光と影> 国際的高等教育(大学教育)の構造改革は、1990年初頭から先進諸外国で開始された。科学技術開発、教育の質的保障に加えて、国際化社会における持続的社会発展、技術開発競争、高等教育の質保障、地球環境・エネルギー問題、爆発的人口増加、南北格差拡大、感染症の国際的席巻などの諸問題に対する大学の社会機能の開発も追求されている。 
 日本におけるアカデミックコミュニティの中枢である日本学術会議でも、1.教育改革、2.民主社会の実現、3.共生社会の実現、4.国の安全保障の確保と安全・安心社会、5.健やかに生きる社会基盤、6.産業、経済、労働と雇用政策、7.自然との共生、自然の再生、8.国土と地域の再生、9.情報・通信システム整備、10.エネルギーと環境への10大課題を提起している。このような国内外の動向を背景に、日本の大学法人化は、次のような具体的課題を遂行しつつある。1.教学と経営の分離、2.大学のステークホルダーへのアカウンタビリティの拡大、3.大学財務会計の透明化、4.教職員の意識改革とコストマインド・チャレンジ・コミュニケーションの強化、5.文部教育行政からの離脱と社会からの支持・協働、6.経営の独立と財政基盤の拡大、7.高校までの義務教育の拡大、8.教員資格基準の明確化、9.教員の雇用契約の近代化と教育組織再編、10.国・公立大学と私立大学との公平な競争。日本における高等教育改革、「法人化」は、将来、どの様な光と影をもたらすのだろうか。
<農山村地域医療の戦略的再構築> 第55回日本農村医学会学術総会では、久野邦義学会長により「地域医療の展望」が学会テーマとして掲げられた。折しも、医師養成の質的向上と国際的標準化を志向した医学教育と研修制度の改革は、大学医局講座制の崩壊、地域医療現場における人材払底、医療人材市場における流動化をもたらし、結果として農山村僻地に深刻な影を落としている。農業・農村問題、少子高齢化、市町村合併と地方分権など、農山村僻地を取り巻く諸問題と地域医療問題が絡まり、全国的な社会問題となっている。医学教育、地域医療のドラスティクな改革と将来像を見すえた日本農村医学会の地域医療再構築の戦略を、どのように展望すればよいのだろうか。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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