日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: sympo3
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シンポジウム3
診療所医師の立場から
農村の診療所活動と地域医療の展望
長 純一
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抄録

 佐久病院から派遣され、本院より40km離れた農村部の国保診療所長として昨春まで6年間勤務した。村では、複合施設をつくり医療・保健・福祉の連携に力を入れようとしていた。農村部の大きな課題である地域の高齢化・過疎化に対して、住民参加型での地域福祉の充実が不可欠であると考えていたが、村の体制では在宅医療が即在宅ケアにつながる状況であった。診療所長として様々な医療ニーズに応えることはもちろんであるが、介護保険導入時期と重なったこともあり、在宅ケアに力を入れ、地域福祉の充実の必要性を行政や社協に認識してもらうことが最重要であると考え実践した。特に地域での看取りには力を入れ、多くの方(約4割)を自宅で看取らせて頂いた。看取りまでを行うことで、地域に一定の訪問看護やヘルパーの需要が発生することになり、行政や社協に村の在宅サービスを充実させていく必要性をわかってもらうことと、その経営を守ることが一つの目的であった。家族や地域の知り合いといった方が関わることが亡くなる方にとって非常に重要であることを実感してもらうことで、村の良さを再認識してもらうこと、そのために充実した地域福祉が必要なことを住民が認識することを目指した。村にあった地域福祉をと考え、全国の先駆的実践が行われている地域や施設を数多く視察し村に持ち帰り提言した。「しょうがい者」の支援は、個人的に大きなテーマであり積極的に取り組んだ。
 また農村医療の立場では、人と人が支え合う力、老いを支える力を持ち合わせる地域としての「農村」の価値や、生きがいとしての「農業」など、食料生産基地としての役割だけではない、新たな意味付けをすることが重要と感じ発信した。また地域での研修が重視される流れの中で、地域で学ぶ意味を示すために、学生や研修医を多く引き受けた。地域からみえる病院医療の問題点や役割を知るといった以外に、農村医療の歴史教育もした。また様々な学会等にその活動を報告した。経営を好転させると共に、医師交代後の後任医師の負担軽減と、地域に早い時期に医師が出る機会をつくるべく医師体制を二人に徐々に近づけた。
 いずれの取り組みもうまくいったとは言い難いが、農民と農村の暮らしが良くなることが農村医療の目的(第1回の若月会長挨拶)であると考え、実践してきた中で見えたことは以下である。診療所で学べるもの・実践できるもの 
1. 農村地域の諸問題の存在に気付く 福祉の重要性や過疎化・雇用の問題など
2. 経営・マネージメント・医療や社会保障情勢に対する視点が身に付く
3. くらしをみる・ふれることで、農村・農業のもつ新たな価値に気付き発信できる
4. 行政や地域社会とのつきあいの重要性を知り、付き合い方を学ぶ
若月の農村医科大学構想では、農村の社会学・経済学・福祉を重視し教育する、とあるが同じ農村医学会に期待すること
1. 農村の疲弊に対しどのように関われるのか 在宅医療から地域福祉そして地域づくりへ
2. スタッフの確保を全国レベルで考える農村医科大学?
3. 農村部における厚生連の役割を認めさせるなおいっそうの努力を
4. 農村・農業の新しい意味づけを(介護予防などで)

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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