日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop2
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ワークショップ2
県西部浜松医療センターの感染対策の実際
松井 泰子矢野 邦夫堀内 智子名倉 美恵子松本 里佳柴田 佳子
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抄録

 当院では平成5年に感染対策を専門とする衛生管理室を設置した。当院の感染対策の戦略は、根拠が乏しいと考えられる対策を中止して、そこで得られたコストを根拠のある感染対策に割り当てることである。
 設置当初は感染対策の根拠も確立されておらず、スリッパの履き替え、環境消毒、環境調査などに多くの時間と労力を費やしていた。また、新規の感染対策はコスト増加の心配があり導入も進まなかった。しかし、EBM(Evidence Based Medicine)を導入することで、経験的、習慣的な対策を中止するなど、感染対策は一変した。そして、無駄な対策を中止することで得られた費用を必要な対策に用いる「費用の再配分」が可能となった。しかし、一言で無駄な対策といっても、今まで永年正しいと信じておこなってきた対策を中止することは、病院感染を増加させてしまうという危惧がつきまとう。その不安を克服する有効な手段がEBMである。質の高い数多くのエビデンスが「その対策は不要である。」と言えば、自信を持って対策を変更することができる。当院の感染対策の根拠はCDCガイドラインである。CDCは数多くのガイドラインや勧告を世界に向けて発信しており、その内容は科学的、かつ、実際的であり臨床現場で活用しやすくできている。そしてもう一つ重要なことは、病院感染症サーベイランスを実践することである。サーベイランスを実践することで取り組むべき感染対策の必要性が明確になり、かつ、導入した感染対策の評価が可能になる。そして、サーベイランス結果を現場にフィードバックすることで、導入前後の様々な障壁を打破するために強力な説得材料になる。当院では平成6年からサーベイランスを継続しており、感染率の推移を把握し、感染対策の評価を行っている。
 今回、平成5年から17年までに当院に導入した主な感染対策とそれにかかるコストを述べる。粘着マットの廃止、完全閉鎖式導尿システムの導入、安全装置付き器材の導入、N95マスクの導入、輸液セットの三方活栓廃止と閉鎖式システムの導入、ガーゼカストとセッシ立ての廃止、万能つぼの廃止、手術室のスリッパ廃止、呼吸器回路の定期的交換の廃止、手術前の手指消毒用滅菌水を水道水に切り替えなどである。これらはCDCのガイドラインに基づいて導入したが、その背景にある根拠を十分に理解した上で慎重におこなった。また、サーベイランスで感染率の上昇は認めなかった。かかるコストについては、会計課用度係が計算した。感染対策を導入したその年から平成18年まで継続して行なっていた場合のコストの累積を算出した。その結果、約1億円以上の莫大なコストが削減されたことがわかった。ここで明らかになったことは、今までの経験的な感染対策には多額なコストがかかっており、一方コストが嵩むとばかり思っていた新たな感染対策が、コスト削減であったことである。
 これからの感染対策は根拠に基づいた対策とサーベイランスの実施、そして病院経営を十分考慮し、「費用対効果」を視野に入れた感染対策が重要である。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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