日本農村医学会学術総会抄録集
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第56回日本農村医学会学術総会
セッションID: 1B02
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一般演題
施設助産師による継続支援の必要性について
~パニック障害の既往を持つ妊婦との妊娠期から施設退院後の関わりを通じて~
近藤 景子
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キーワード: 母子, 継続支援, 施設助産師
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抄録

〈はじめに〉近年の出産環境は、自宅分娩から、急速に施設分娩へと移行してきた。そのため、出産後の母親は医療施設が決めた時間から、施設退院後は自らの生活時間に戻らなければならない。ただでさえ、女性にとって、妊娠・分娩・産褥は、心理・社会的な側面で大きく変化する時期である。とくに出産後の1ヶ月間は精神的に不安定で、母親にとって危機的な時期であり、母親への支援が最も必要な時期であると考えられるようになってきた。 今回、パニック障害の既往を持ち、未入籍での妊娠、養父の入籍反対、パートナーの転職による不安定な経済的状況といった社会背景により、妊娠中の妊婦自身の育児不安が強く、さらに産褥期にいちばんの支援者となるであろう実母も現病歴にパニック障害をもっており、退院後の家族の支援体制についても不安が感じられ、産後においてパニック障害の増強・育児困難が予測された妊婦と妊娠期~退院後まで関わった。そのなかで、妊娠期から行政と情報交換などの連携を持つことができ、施設助産師として継続支援の必要性について考えることができたので報告する。 〈倫理的配慮〉研究以外の目的で、知り得た個人の情報を公表しないことで了承を得た。 〈事例紹介〉妊婦:20歳、初妊婦。既往歴:2年前にパニック障害と診断。妊娠時には症状は改善され、通院、内服は不必要。家族構成:養父(実母と再婚)、実母、叔父、妹。実母は現病歴にパニック障害を持っている。 〈経過〉妊娠21週頃より、社会背景から育児不安が増強され、妊婦自身が中期人工妊娠中絶を希望するようになったため、産婦人科外来スタッフと行政が連携し、情報交換を行うこととした。その後、当院での分娩を考慮し、病棟スタッフも交えて定期的に開催される「未熟児等連絡会」で情報交換を行った。妊娠25週になり、養父からの入籍の許可があったことやパートナーの仕事も安定してきたことから精神状態も安定してきた。病棟での担当助産師として、妊婦健診時に外来にて実母同席のもと、分娩入院時オリエンテーションを実施した。分娩においては、軽度の混乱状態となる場面もあったが、パニック発作をおこすこともなく順調に進行した。分娩直後にはカンガルーケアを実施、その後の入院期間中は妊婦のバースプランに添い、産褥2日目より母子同室を開始する。産褥6日目の退院後、産褥9日目に電話訪問、産褥14日目に産後訪問をそれぞれ実施した。退院後は実母の状態も落ち着いており、母子の支援は実母が担っていた。児を中心として、家族関係も良好であることが伺えることができた。 〈考察〉今回の妊婦との関わりを通じて、母子の継続支援を行うためには、施設と地域の関係機関との連携が必要不可欠であることを再認識した。当院では行政からの委託を受け、当院で分娩し、希望する市内在住の褥婦と新生児に対して、1ヶ月健診前に産後訪問を実施し、その結果と継続訪問の必要性の有無を行政へ報告している。利用者の妊娠・分娩・早期の産褥経過を知っている施設助産師が、施設退院後も褥婦と新生児に継続的に関わることは、利用者への安心感にも繋がっていると思われる。施設から地域に戻ったばかりの母子が、心身ともに健康な生活を営むことができるよう、各関連機関との連携を持ちながら妊娠期から施設退院後まで継続支援を行っていくことも施設助産師の役割である。地域において、唯一産科を有する施設の助産師として、その役割を果たしていきたいと考える。

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© 2007 一般社団法人 日本農村医学会
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