日本農村医学会学術総会抄録集
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第56回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2C05
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一般演題
炭酸リチウムの長期投与により誘発された再発性無痛性甲状腺炎の1例
深澤  洋
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抄録

症例:31歳、女性。現病歴:躁鬱病にて炭酸リチウム 900mgを約15年間服用中に、半年間に10kgの体重減少、動悸あり、某医を受診。このとき、FT4 3.26 ng/dl、FT 13.20 pg/ml、TSH 0.03μU/ml以下と高値にて、当科に紹介。バセドー病と診断され、メルカゾール(MMI)30mgが開始された。しかし、抗サイログロブリン抗体:33.5U/ml、抗TPO抗体:3.3U/mと陽性、TSHレセプター抗体(TRAb)が陰性であり、さらにMMI投与開始5日目に、FT4 2.15 ng/dl、FT 5.03 pg/ml、TSH 0.03μU/ml以下と短期間に改善したため、無痛性甲状腺炎(PT)が疑われ、MMIは中止された。約1カ月後、FT4およびFTは測定感度以下、TSH 39.34μU/mlと甲状腺機能低下症にてL-T4 12.5γ/日が開始された。以後半年後には甲状腺機能は正常化も、L-T4 25γ/日が維持投与された。H18/5  FT4およびFTは正常、TSH 0.72μU/mlであり、TSHが次第に低下傾向にて、L-T4は中止された。L-T4中止後、10カ月経過後に、倦怠感および頚部腫脹があり、某医を受診。このときFT4  5.54ng/dl、FT 2.25pg/ml、TSH 0.03未満μU/mlであり、甲状腺機能亢進症が疑われ、再度当科に紹介された。当科受診時、圧痛がないび漫性甲状腺腫大あり、FT4 1.17ng/dl、FT 1.77pg/ml、TSH 0.03未満μU/mlと甲状腺機能は正常であった。WBC:7300と正常、CRP 0.68、123I24時間甲状腺摂取率は0%、TRAb  1.0IU/Lと陰性、抗サイログロブリン抗体:100U/ml以上、抗TPO抗体:2.1U/mと陽性にて、PTと診断し経過観察を行った。約3週後に、FT4およびFTは測定感度以下、TSH 145.44μU/mlと甲状腺機能低下を発症した。L-T4 25γ/日が開始した現在1カ月後も、なおもFT4 0.41ng/dlおよびFTは測定感度以下、TSH 165.90μU/mlと甲状腺機能低下を持続していた。考案:自己免疫性甲状腺疾患を持っている患者では、リチウムは抗甲状腺自己抗体を増加させることがあり、潜在性または顕性甲状腺機能低下症になる可能性がある。リチウムで長期の治療を受けている患者の抗甲状腺自己抗体陽性率は、10~33%であるとの報告がある。さらに、長期のリチウム服用例で甲状腺機能亢進症が発症したという報告があるも、おそらく甲状腺細胞に対するリチウムの効果に起因するのかまだ明確ではないが,リチウムによって誘発された無痛性甲状腺炎によるものと思われるとの報告が散見される。リチウム誘発無痛性甲状腺炎の頻度は、年間 1000人中1.3人との報告がある。結語:炭酸リチウムが再燃性PTを誘発し、さらには甲状腺機能低下を持続させている可能性が考えられた興味ある1例を経験した。

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© 2007 一般社団法人 日本農村医学会
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