日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop2
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ワークショップ2
tPA・SCU時代の脳卒中の治療と今後の課題
谷崎 義生鶴岡 信
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抄録

脳卒中は、死亡原因の第3位を占め、寝たきりの原因の3割、介護が必要となる原因の第1位を占めています。脳卒中は救命するだけでなく、後遺症を如何に少なくするかがとても大切な疾患です。2005年10月tPAの脳梗塞への適応拡大により、後遺症軽減を目指す日本の脳卒中治療は新時代を迎えました。しかし、tPAの使用は発症後3時間以内厳守の条件があります。この条件は”time is brain”と言われ、発症後2時間以内に専門的な診療が可能な医療機関に到着できること、患者の来院後1時間以内(発症後3時間以内)に専門的な治療を開始すること、など新たな体制整備を必要とします。
木村和美先生は、病院前救護体制の構築に熱心に取り組まれ、救急隊用に脳卒中重症度の判定に使用する倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)を開発されました。先生の調査では、日本でのtPA使用率は1〜2%と欧米に比較して圧倒的に低く、人口10万人に対する使用症例数は全国平均3.1人で、東京はそれより低い2.7人であるのに対し、倉敷市では8.7人の高率になっています。この差は、KPSSに代表される病院前と病院到着後のシームレスな体制整備の違いによるものと思われます。先生には、患者教育・救急隊教育を含め発症から治療開始までの「脳卒中救急」体制整備の重要性について、脳卒中病院前救護の標準的手法であるPSLS(Prehospital Stroke Life Support)や病院スタッフの脳卒中初療の標準的手法であるISLS(Immediate Stroke Life Support)などのコースの意義などを交えお話をいただきます。
国の方針に基付き平成20年度から都道府県が開始した新医療計画では、4疾病(脳卒中対策、急性心筋梗塞対策、がん対策、糖尿病対策)及び5事業(救急医療、災害時医療、僻地医療、周産期医療、小児医療)の医療体制それぞれについて、医療連携ネットワークを組んで、それぞれの施設間を地域連携クリティカルパスで結ぶシームレスな体制整備が開始され始めました。「地域完結型医療時代」の幕開けです。脳卒中対策を担う医療機関は「救急医療」、「回復期リハビリ」、「療養医療」のどの機能を担うのかを明確にし、地域医療ネットワークに参加することが不可欠になります。また、医療機関はホームページなどを使用し、自院の機能を住民に分かり易く説明する必要があります。一方、行政は地域医療ネットワークに必要な医療機能(目標、求められる体制など)及び担う医療機関、施設の具体的な名称を記載した情報を、住民に情報発信する義務を負うことになります。
国の施策のパイロットスタディー役を果たしているような脳卒中医療連携ネットワーク先進地区の熊本市で、ネットワーク構築の中心的役割を担われている橋本洋一郎先生には、ネットワーク構築に必要なポイントと今後の課題についてお話をいただきます。
地域救急医療は地場産業に例えられます。「倉敷モデル」、「熊本モデル」などが無条件で各地に当てはまる訳ではありません。各地区の特性を踏まえた病院前救護体制整備をするために、地域メディカルコントロール(MC)体制があります。地域MC体制は病院前救護体制を主な対象にしていますが、医療側の機能分化と連携に基付いた「地域完結型医療」体制整備と不可分に結びついています。新医療計画では、「無いものをどう整備して行くか」から「今あるものをどうつなげいくか」に目標を転換してきています。
安藤哲朗先生には、地域中核病院の立場から、今ある人材・資機材などを活用して、tPA投与を中心とした脳卒中治療新時代への対応についてお話をいただきます。
平成18年度の医療費改訂で「SCU加算」が追加されました。平成20年度の改訂では、「超急性期脳卒中加算」が追加されました。両加算共に、医師だけでなくコメディカルの手厚い人員配置が必須の条件になっています。最近、救急医療、小児救急医療、周産期医療などを中心にして病院勤務医不足による「医療崩壊」が急速に進行してきています。その対策として「産科や小児科をはじめとする病院勤務医の負担の軽減」対策も追加されましたが、医師不足解消には「焼け石に水」の感が拭えません。治療実績に基付いた医療現場からの情報発信が喫緊の課題と思われます。
日野先生には、SCU稼働による治療成績の変化など、脳卒中治療成績を向上させるための院内外の体制整備の現状と課題についてお話をいただきます。
ワークショップでは、演者の先生方のご講演は、あくまでも問題提議と位置付けています。その後に行われる演者の先生方を含めたフロアーと一体となった討論がとても大切です。フロアーから常日頃抱えている問題積極的に出していただき、脳卒中治療の抱えている問題や解決策を情報共有し、脳卒中地域医療の治療成績の向上に資することが目的になります。多数の方々の参加をお待ちしております。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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