日本農村医学会学術総会抄録集
Online ISSN : 1880-1730
Print ISSN : 1880-1749
ISSN-L : 1880-1730
第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop2-2
会議情報

ワークショップ2
脳梗塞急性期t-PA静注療法のリスクマネジメント
安藤 哲朗川上 治杉浦 真加藤 博子土方 靖浩坪井 崇鈴木 将史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

〈緒言〉
脳梗塞超急性期のt-PA静注療法は、発症から3時間以内のみに適応があり、また3時間以内であったとしても早ければ早いほど有効性が高いので、病院に到着してから治療開始までを1時間以内にすることが推奨されている。その一方でこの治療は出血性合併症の危険が高いため、厳密な除外規定がある。治療担当医にとっては、極めて短時間のうちに的確に適応を判断してインフォームドコンセントをとる必要がある。当院では平成20年4月までに23例のt-PA静注療法を施行した。その中で経験したヒヤリ・ハット例、アクシデント例、医療紛争例のいくつかを報告し、t-PA静注療法のリスクマネジメントについて考察する。
〈症例〉
1.既往に慢性硬膜下血腫がありt-PA治療をせず、後で解離性大動脈瘤と判明した症例
54歳女性。左上下肢麻痺発症後1時間で来院。胸痛なし。NIHSS 2点。胸部XPで縦隔の拡大なし。入院後の心エコーで大動脈解離と判明。
2.右片麻痺発症1時間後にt-PA静注したが、その後四肢麻痺となり頚椎硬膜外出血と判明した症例
71歳男性。突然の右肩の痛み。救急搬送されて診察中に急に右片麻痺。NIHSS8点、禁忌項目なし。t-PA静注の2時間後に左片麻痺も出現し、頚椎MRIにて頚椎硬膜外出血と判明。静注の11時間後に緊急血腫摘出術を施行。
3.片麻痺を呈したヒステリー症例
81歳男性。造影CT検査中に気分不快、左片麻痺が急性発症。顔面には麻痺はなく、構音障害はなかった。発症30分後のNIHSS5点。神経内科医診察により、ヒステリーと診断。t-PA施行せず。
4.意識障害の鑑別に手間取り、来院後からt-PA静注までに2時間を要した椎骨系梗塞
62歳男性。突然の気分不快と意識障害で発症53分後に救急搬送。当初意識障害の鑑別診断に時間がかかり、脳MRI、MRAにて脳底動脈の途絶と小脳の多発性のdiffusion高信号を認めて脳梗塞と診断がつくのまでに時間がかかり、来院からt-PA静注までに2時間を要した。
5.受診時の症状が失語のみでt-PAを施行しなかったが入院2日後に麻痺が悪化したアテローム血栓性脳梗塞
59歳男性。発症2時間の時点で麻痺はなく失語のみでNIHSS6点。CT、MRIにて左MCA領域に同時多発梗塞。入院後に悪化して重い後遺症を残したため、家族からt-PAを使用しなかったことに対するクレームがあった。
〈考察〉
短時間のうちに脳梗塞の診断をして、解離性大動脈瘤や頚椎硬膜外血腫を確実に鑑別することが困難な場合がある。疼痛がある場合には動脈解離や出血性疾患を疑う必要があるが、疼痛のない大動脈解離もある。NIHSSは脳血管障害の重症度の指標ではあるが、脳梗塞の診断を保障するものではないことに留意する必要がある。
脳梗塞の診断精度を上げるためには、急性期のdiffusion MRIとMRAを撮影することが有用である。特に椎骨系の脳梗塞では、意識障害の鑑別に手間取る可能性があり、確実な診断のためにはMRI、MRAの必要性が高い。さらに普段から脳梗塞の診療をしており、t-PA治療しない症例も含めて多数例を経験している専門医が対応する必要がある。
また症例5のように、t-PAが社会に認知されるに伴って今後はt-PAを施行しない場合の家族説明も重要となると考えられる。

著者関連情報
© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top