日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop4-2
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ワークショップ4
心房細動治療の最前線 -積極的な洞調律化の意義とその方法
鵜野 起久也
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抄録

【緒言】心房細動は、心房―心室の電気的興奮応答の非同期に起因する心臓ポンプ機能の障害と心内凝固機能の亢進による血栓・塞栓症を容易に来たし、さらには心房細動の持続が心不全の増悪の素地を形成することが知られている。心房細動の治療として血栓塞栓症の予防のための抗凝固療法が積極的に行われている反面、その調律の管理に関しては一定の見解が示されていなかったが、2002年には薬物内服治療による心房細動調律に対する、心拍コントロールと調律コントロールの予後に関するAFFIRM研究が発表された。クマリン系抗凝固薬の塞栓症に対する優位性が示されたものの、心拍・調律コントロール群いずれの群においてもそれぞれ洞調律・心房細動持続患者が相当数含まれていたためにその優劣に関しては正当な評価は得られなかった。しかし、その後に発表されたAFFIRMのメタ解析研究で、1)洞調律が死亡のリスクを減弱すること、2)抗不整脈薬の使用が死亡率を増悪すること、が明らかとなった。従って心房細動の治療では洞調律維持が重要であり、低侵襲で安全性・有効性の高い治療を積極的に考慮すべきであると考えられている。
以上を踏まえ、我々は心房細動に対して積極的な洞調律化を図るべく、カテーテルアブレーションによる心房細動の根治治療をすすめている。本院におけるカテーテルアブレーションの現況を呈示し洞調律維持の治療指針を示す。
【発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション】発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションとして本院にて開発され、現在本邦における心房細動アブレーションのスタンダードとなっている同側両肺静脈拡大隔離術(EEPVI)は、肺静脈と周囲の左房前庭部から前壁部分を焼灼し、心房細動の起源・細動基質を電気的に消失・修飾することにより根治することが可能である。EEPVI原法では、左房―肺静脈間の局所電位を通電指標とするものの左房・肺静脈形態をX線透視下に視覚的に認識することにより焼灼部位を決定しているために、既焼灼熱部位の正確な再同定が困難であることから各焼灼部位の三次元的位置の同定(空間的分解能)の精度が劣っていることが問題であった。我々はEEPVI原法にElectro-anatomical location mappingを併用し、空間的位置の同定が再現性を持って可能となり、さらには総通電エネルギー量・透視被爆量・手術時間のいずれも有意に減少させることが出来た。また、EEPVIによる予後においても洞調律維持率は4年におよぶfollow-upにても92%と良好である。【遷延性および長期持続性心房細動に対するカテーテルアブレーション】遷延性心房細動に対してもEEPVIにより高率に洞調律維持が可能であることが当科の治療結果が示している。一方、心房細動が長期に持続する長期持続性心房細動(>1Y)では、心房の電気的・形態的リモデリングの進展により心房細動の起源・基質として心房筋を巻き込むと考えられるため、EEPVIによる肺静脈とその周囲組織の電気的隔離のみでの心房細動根治は76%以下と低値であることが示された。これは、非肺静脈性trigger・心房筋でのrotorの出現と興奮性の亢進、さらには心房自律神経叢のリモデリングと活性化などが要因とされ、長期持続性心房細動では、心房細動の持続に関与する心房基質に対するアブレーションを付加することが必要である。心房細動持続基質を示す心房心内膜電位指標として、持続性心房破砕電位(continuous fractionated atrial electrogram: CFAE)、AF nest電位などが主に左房筋に認められていることが報告されているが、長期持続性心房細動に対して洞調律化を図るべく、左房におけるCFAEの分布領域を同定して主たるCFAE局在部位を線状に焼灼する、EEPVI付加段階的左房線状アブレーションを考案した。すなわち、EEPVIに加え左房天蓋部・底床部・左房中隔・僧帽弁輪―冠静脈洞・大心静脈基部・僧帽弁輪―左下肺静脈間・左心耳に段階的線状アブレーションを施行し良好な結果を得ている。今まで困難とされてきた長期持続性心房細動の洞調律維持の短期および長期成績とその問題点を明らかにし克服することにより今後の展望に言及する。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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