日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop6-1
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ワークショップ6
本邦における産科救急の現状と対策
-大学医局の運営面から
宮坂 尚幸久保田 俊郎
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抄録

産科救急医療の主たる担い手である病院勤務医の著しい減少により、本邦の産科医療が危機に瀕していることは周知の事実である。医師不足の背景には、過酷な勤務、医療訴訟の増加、女性医師の増加などが関係し、各方面において対策が講じられつつあるが、このような状況下で大学医局は何ができるか、また何をしなければならないかについて、現状を分析しつつ今後の対策について検討を行いたい。
大学病院には、臨床・教育・研究の3つの使命があるが、近年の特徴は臨床の比重が極めて高くなっていることである。当院では2006年に三次救急医療施設としてERセンターを開設したことから救急患者数が増加し、これに伴い産婦人科の手術件数も2007年500件(2005年は355件)と急増した。また近隣の分娩取り扱い施設の相次ぐ閉鎖、縮小などにより分娩件数も2007年に245件(同142件)となり、今年はさらに増加傾向である。我々の教室は、2007年4月に文部科学省医師不足分野推進経費の獲得により2名の増員があり、現在16名(男性11名、女性5名)で運営しており、一見十分な人員を確保しているように見えるが、教育・研究に割く時間、さらに医局関連病院へのhelp(いわゆる外勤や当直)を考えると、まだまだ充足しているとは言いがたい状況である。
図1は過去20年間の産婦人科入局者数を男女別に示したものであるが、卒後臨床研修制度開始後やや減少している傾向があり、合計では106名(男性38名、女性68名)であった。これらの入局者のうち、現在も大学あるいは医局関連病院(研修協力病院)に勤務している人員は全体の48%(男性63%、女性40%)に過ぎず、図2に示すように卒後5年を経過すると、開業、他診療科への転職、妊娠出産により休業もしくはパート勤務への転職などで医局人事(いわゆるローテート)から外れることが多くなっている。特に卒後臨床研修医制度開始により2年間入局者0が続いたことは医局関連病院への医師派遣人事を直撃し、ここ数年間で3つの病院からの撤退および1つの病院における分娩取り扱い休止を余儀なくされた。
これらの人員不足に対しては、入局者を増やすことおよび退局者を減らすことが主な対策となるが、後者に関しては、それぞれの医師の家庭的・経済的環境また職業選択の自由を考慮すると、大きな減少は望めない。したがっていかにして産婦人科を志す医師を増やすかが、大学医局に与えられた使命といえよう。卒後臨床研修制度開始以前は、6年生の医学部学生を積極的に勧誘し、4月から大学医局に入局、翌年から教育関連病院に出向するというシステムであった。しかし現行の制度では、学生時代に勧誘されても、2年間の初期研修の間に志望が変わってしまう場合が多い。したがって、学生時代の勧誘ではこれまで以上に強烈な印象を与え、初期研修においても産婦人科を選択科としてより早期からより長期に研修するプログラムを提供することが必要である。
かつて学生の勧誘では、産婦人科に興味のありそうな学生をピックアップし説明会(飲み会)に連れまわすというのが常套手段であったが、もはやこの様な方法だけで入局する人間は少ない。むしろ産婦人科の学問的および臨床科目としての魅力、および指導医の人間的魅力を積極的にアピールすることが重要で、我々の大学では従来行われていた2週間の臨床実習を4週間に延長し、かつ周産期、生殖内分泌、腫瘍の3つの分野の中から、より興味のある分野を重点的に実習できるシステムに変更し、産婦人科に興味を持つきっかけとなるよう努力している。また医局関連病院においては、産婦人科志望の気持ちがぶれないよう、積極的な勧誘をお願いしているところである。
大学医局および教育関連病院がそれぞれの特色を生かしつつ協力し合い、より多くの医学生が産婦人科医を志望するよう、さらなる努力をして行きたいと考えている。
当日は、現在の教育システムに対する学生のアンケート結果なども踏まえ、発表する予定である。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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