日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
セッションID: workshop6-4
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ワークショップ6
「都市近郊 地域周産期センターにおける産科救急の現状と対策」
松澤 克治
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抄録

<緒言>
「福島県立大野病院の産婦人科医師逮捕」・「奈良大淀町立病院の妊産婦死亡、19施設不需要」等、産婦人科を取り巻く環境は一段と悪化している。とりわけ、小・中規模施設での状況が厳しくなり、「立ち去り型サボタージュ」が発生し、分娩や手術が困難となり、周産期医療機関の集約化・二極分化という医療体制の変動が否応なく、急速に進行している。当院は地域周産期医療センターとして地域周産期医療の最後の砦として昼夜努力しているが、この一局集中化の大波にさらされ、対応に苦慮している。今回は、その現状と対策につき報告する。
<現状>
安城更生病院は愛知県西三河に位置し、「日本のデンマーク」と称される近郊農村地域である。しかし北には豊田市があり、関連企業も多く活気があり人口も増加している。それでも地域の出生数は若干減少気味だが、分娩取り扱い機関が減少したことと、平成14年に当院が移転新築したこともあり、平成13年分娩数867例が、14年990例、15年1249例、16年1370例、17年1433例と増加し、病床利用率100 %を超える状況が続いた。その為本来の当病院の役割である母体搬送の受け入れ等が困難となり、移転前には殆んど無かった母体搬送のお断りが徐々に増加し、平成17年には受け入れ110例に対し42例あった。そこで周辺機関からの苦情もあり、Low Risk分娩の制限を開始し、平成18年は分娩数1452例と更に増加したが、 19年には1376例と減少した。病床利用率も100%を超える事は少なくなり、産科要因での母体搬送のお断りは殆んど無くなった。
しかし、High Risk分娩の割合増加、それに伴い帝切率も移転前の平成13年が 21.0%であったのに比し、平成18年では29.7%、19年には34.9%になった。また、ここ10年間で母体死亡が3例あったが、2例は母体搬送、1例は院内症例であった。AFLP、早剥+頭蓋内出血、羊水塞栓症例で、出来うる限りの手段が尽くされたが、救命は極めて困難な症例であり、遺族の納得も得られた。
一方、分娩誘発時の子宮不全破裂で子宮摘出が必要であった症例、早剥で対処が若干遅れ、重症仮死になった症例でカルテ開示の手続きがとられているが、現在のところ係争中の症例は無い。
<今後の対策>
愛知県の周産期救急システムは、かなり整備されている。平成10年に発足した周産期医療協議会により設置された総合周産母子センター(名古屋第1日赤)を中心に、当院を含む8つの地域周産母子センターが協力し、救急システムを担っている。平成16年~18年の産科搬送に関する消防庁全国調査で、不応需率が全国平均6.67に比し、愛知県は1.38と低く、出生数規模が同じ大阪・東京・神奈川の10.15,12.63,14.18に比し極めて良好な結果であった。しかし、NICUの許容量が限界になっており、一つの総合周産期センターでは担いきれず、複数の地域センターを総合センター化することが計られており、当院も県の補助の下にNICU等の拡充を予定している。
また、周辺周産期医療機関との連携を強化し、Low Risk分娩を出来る限りお願いし、役割分担の確立を目指すと共に、将来の(セミ)オープンシステムの導入も見据え、治療方針の共有化を計る為、現在年1~2回開いている講習会・症例検討会を更に積極的に開催する予定である。

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© 2008 一般社団法人 日本農村医学会
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