日本農村医学会学術総会抄録集
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第58回日本農村医学会学術総会
セッションID: S1-3
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中高年のQOL 管理に役立ちそうな乳・乳製品の栄養生理
金子 哲夫
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抄録

日本人の平均寿命は女性で85歳,男性で78歳を上回って
おり,65歳以上の人口が全人口に占める老年人口の比率は
平成18年に21.0%となった。これは世界のどの国も達成し
ていない。老年人口比率は更に,2015年には25%台に達
し,その後も低出生率の影響を受けて上昇を続け,2050年
には32%に達すると推測される。その一方で,将来の老齢
者となる中高年世代はというと,30~60歳代男性の3割以
上に肥満が見られ,高血圧,糖尿病,脂質異常症(高脂血
症)などのメタボリックシンドローム患者数は1,700万人
を超えている。活動度の高い豊かな高齢者生活を実現する
ためには,いかに肥満にならずに活動度高く中高年時代を
過ごすかということが重要といえる。その必須要素は,
「運動」と「栄養」である。「運動」と「栄養」の両者に
よって高齢化に伴う筋肉と骨の老化を抑制し,活動の基本
要素を確保することが重要である。
乳・乳製品が栄養価の高い食品であって,とりわけ骨格
形成に役立つ食品であることは周知の通りである。牛乳タ
ンパク質は消化性やアミノ酸バランスに優れ,豊富に含ま
れるカルシウムは吸収性に優れている。乳・乳製品の価値
を高める科学は,こうしたこれまでの栄養から更に一歩踏
み込んで,栄養的特徴がもたらす生理的な価値を明らかにしつつある。
今回のシンポジウムでは,文献情報を含む最近の乳・乳
製品の栄養生理学的研究の中から,中高年のQOL 管理に
役立ちそうな話題として,次の3点をご紹介したい。
1.牛乳タンパク質はカゼインと乳清タンパク質とに大
別される。酸性環境ではカゼインは固い凝集物を形成する
が,乳清タンパク質は可溶化している。このため,両者は
胃からの排出速度が異なり,消化吸収速度が異なる。高齢
者のタンパク質代謝の特性から,窒素蓄積にとって乳清タ
ンパク質が有利ではないかとの考えがある。
2.プロトンポンプインヒビター投与により胃酸分泌低
下ラットモデルを作成し,乳酸菌発酵乳のタンパク質富画
分配合飼料を給餌した。胃酸低下処置により低下したカル
シウムの吸収および骨の特性は乳酸菌発酵物投与により抑制された。
3.カルシウム摂取量が多い人には肥満者が少ないこと
が報告されている。脂肪の吸収抑制ばかりでなく,血中ビ
タミンD レベルの低値が脂肪細胞に作用していると考察
されている。乳清にはカルシウムの吸収促進に有利に働く
作用があり,抗肥満効果が期待される。

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© 2009 一般社団法人 日本農村医学会
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