日本農村医学会学術総会抄録集
Online ISSN : 1880-1730
Print ISSN : 1880-1749
ISSN-L : 1880-1730
第60回日本農村医学会学術総会
セッションID: RKS4-20
会議情報

胸水を用いた遺伝子検査が有用であった肺吸虫症の2例
若月 信高部 和彦足立 雄太齋藤 弘明山下 高明齋藤 和人若井 陽子篠原 陽子
著者情報
キーワード: 肺吸虫症, PCR, 胸水貯留
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 肺吸虫症は主として淡水産のカニの生食によりヒトに感染する寄生虫疾患で,胸水貯留,血痰などの呼吸器症状を呈するため,呼吸器内科を受診することがまれではない.今回,胸水貯留で発症し,胸水を用いた遺伝子検査が診断に有用であった肺吸虫症の2例を経験したので報告する.
 症例1は46歳,女性,タイ人.2008.6月より咳,痰が出現し,左胸水貯留を指摘された.血液検査では白血球10540/μL,好酸球は16.5%,IgEは411.6 IU/mLであった.症例2は42歳,女性,タイ人.2011.4月より呼吸困難があり,左胸水貯留を指摘された.血液検査では白血球10370/μL,好酸球は3.0%,IgEは16068 IU/mLであった.2症例とも胸水は滲出液で,好酸球を認めた.寄生虫抗体スクリーニングは2症例ともウェステルマン肺吸虫,宮崎肺吸虫が3+(強陽性)であった.胸水中の虫体,虫卵,便中の虫卵はいずれも陰性であった.
遺伝子検査は肺吸虫のリボゾームDNA・ITS2領域を増幅するプライマーを用いたPCR法により行い,シークエンス解析により虫種の同定を行った(Sugiyamaら,2002年).今回の2症例では胸水より抽出したDNAを用いてPCR法を行ったが,2例とも陽性であった.シークエンス解析の結果から,症例1は宮崎肺吸虫,症例2はウェステルマン肺吸虫と診断した.
 診断後,ブラジカンテルの投与を行い,自覚症状は改善し,胸水の減少を認めている.また,2例とも日本国内での淡水産カニの生食の既往を認めた.
 肺吸虫の遺伝子診断は,これまでも疫学的研究において虫種の同定に利用されている.しかし,本報告のように臨床診断に用いた報告はまれである.胸水,便,喀痰からの虫卵,虫体の検出は困難であり,今後,胸水貯留例では,胸水を用いた遺伝子検査は肺吸虫症の診断に有用な方法になりうると考える.

著者関連情報
© 2011 一般社団法人 日本農村医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top