日本農芸化学会誌
Online ISSN : 1883-6844
Print ISSN : 0002-1407
ISSN-L : 0002-1407
手延素麺製造中におけるタンパク質の変化に対する糖質の関与について
新原 立子西田 好伸寺谷 公仁子米沢 大造
著者情報
ジャーナル フリー

1974 年 48 巻 4 号 p. 231-238

詳細
抄録

(1) 各種糖のグルテンに対する作用を比較するために糖を小麦粉に添加して50°C,RH 82%に貯蔵した後,湿グルテンをとり出してその状態を調べた結果,ペントースは作用力が強く,その強さはリボース>キシロ-ス>アラビノース>ラムノ-スの順であったが,ヘキソースはほとんど作用が認められなかった.
(2) 糖をグルテンに添加して40°C,BH 83%に貯蔵し,グルテンの溶解性に対する影響を調べた結果でも,アラビノースはかなりの影響を示すのに対し,グルコースの影響はほとんど認められなかった,なおこの実験において,糖の添加による吸湿促進のためにグルテンの溶解性が低下する現象が観察された.
(3) グルテンのアミノ酸分析を行なった結果では,グルコース添加のものもアラビノース添加のものもともに,貯蔵後にリジンがかなり減少していることが認められた.
(4) 手延素麺の還元糖含量は製麺時に増加し,厄中にも幾分増加を示したが,厄後には減少していた.
(5) 素麺水抽出液中の糖組成はグルコース,キシロース,アラビノース,ガラクトース,マンノースと未知の物質少量からなり,グルコースが80%を占めている.(フルクトースは定量しなかった)単糖は水可溶性糖の約1/10を占め,その80~90%がグルコースであり,マンノースとガラクトースがこれにつぐ.ペントースは微量で素麺100g中にアラビノースが3mg前後,キシロースが1mg前後であった.グルコースは厄中に増加し,厄後に減少した.マンノース,ガラクトースは貯蔵中に増加した.ペントースは厄中に幾分増加しているようであるが,その変化量はわずかであった.
(6) 小麦粉および厄後の素麺粉末に水を加えてincubateし,小麦粉中に含まれる多糖を分解する酵素作用の有無を検索した.incubationにより主としてグルコース(あるいはマルトース)による還元力の増加が見られ,ガラクトース,マンノースの増加も観察された,ペントースは小麦粉では増加を認めなかったが,素麺粉末ではアラビノースが幾分増加した.ただし,量的には微量である.
(7) 厄中の素麺水抽出液中に含まれる糖を,素麺に含まれるのと同じ割合でグルテンに添加貯蔵してグルテンの溶解性に与える影響を調べたが,その影響は小さかった.またその影響は,全抽出糖のうちアラビノースだけを添加したものと同程度であった.

著者関連情報
© 公益社団法人 日本農芸化学会
前の記事 次の記事
feedback
Top