「平湖・柳平湖」では、琵琶湖湖岸の湿地生態系の回復を目的として実施された河川整備事業によって底泥からの汚染負荷が軽減し、内湖の水質が改善した。地域住民は「平湖・柳平湖」の保全を自分たちの活動としてどう引き継いでいけるかを模索していた。生物多様性が流域生態系と地域住民による保全活動に果たす役割を検討するため、内湖の保全と地域住民による保全活動を協働研究課題として取りあげ、住民が内湖の保全に取り組むうえでの課題と内湖の滞留時間の季節調整の順応的管理について話し合いをした。内湖の回復に対する住民の関心や保全の課題について住民と情報交換を進めた結果、内湖の水循環を促進する流入量を合理的に調整することが重要と考えられた。河川水と追加導水について供給可能量と全リン濃度(TP)の季節変動を調べた結果、追加導水の実施を9月~10月に限定することによって3月~8月に遡上・産卵する習性のある在来魚の産卵回遊と内湖の水質維持を両立させることが、住民が望む‘在来魚のにぎわいを感じられる内湖’と保全活動の効率化につながると考えられた。地域住民は、自治会で活動を組織化し、農地と集落内の環境整備と内湖の保全に取り組むようになった。「平湖・柳平湖」の内湖の保全活動には、生きものとのつながりを記憶する住民に地域の歴史的魅力を尊重する価値意識が共有されていることが寄与していると考えられた。