日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
CLA
井手 隆
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2006 年 53 巻 8 号 p. 447

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抄録

1. CLAとは
リノール酸は9位と12位にシス2重結合を持つオクタデカジエン酸である.これに対し,CLA(conjugated linoleic acid)は連続した(共役した)2重結合を持つオクタデカジエン酸の位置および幾何異性体の総称であり,天然には乳製品,牛肉などに含まれ,その大部分(75~97%)はc9,t11-CLAである.これは牛の反芻胃中の微生物によりα-リノレン酸やリノール酸の異性化と水素添加,さらに牛体内での代謝も加わり生成する.しかし,牛肉や乳製品のCLA含有量は総脂質の0.3~1%程度であり,食品素材としては主にリノール酸あるいはリノール酸を多く含む油脂のアルカリ異性化によって調製されている.アルカリ異性化によって生成するCLAは大半がc9,t11-とt10,c12-CLAで,組成比はほぼ1 : 1となる.最近,乳酸菌を用いる微生物発酵によりCLAを製造する技術開発も行われている.CLAは異なった構造を持つ脂肪酸の総称であり,その生理作用は個々の異性体ごとに異なる可能性に留意する必要がある.
2. CLAの生理作用
CLAには多彩な生理作用が報告されている.これは,主にアルカリ異性化によって調製されたc9,t11-とt10,c12-CLA混合物を用い観察されたものである.以下,その概略について記載する.
抗がん作用 : 1987年ハンバーグ抽出物に抗変異原性を持つ物質が見いだされ,原因物質がCLAと同定された.その後,動物実験でCLAに様々な組織での発がん抑制作用があることが明らかとなった.その発現メカニズムとして,アラキドン酸代謝の阻害によるプロスタグランジン(PG)産生変化,腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生抑制,オルニチン脱炭酸酵素の阻害,脂質過酸化の誘導,DNA合成阻害,アポトーシス誘導などの作用が報告されている.c9,t11-とt10,c12-CLAの抗がん作用の違いについては明確ではない.
抗肥満作用 : CLAの抗肥満作用は1997年にマウスを用いた実験で初めて見いだされた.この抗肥満作用の発現は用いる実験動物によりその程度か大きく異なり,マウスが最も感受性が高い.ヒトでの抗肥満作用については成績が相半ばし,最終的な結論は得られていない.CLAの抗肥満作用の発現機構として,脂肪細胞でのリポタンパク質リパーゼ活性低下,脂肪細胞のアポトーシス誘導,肝臓での脂肪酸分解の上昇などが考えられている.CLA混合物の抗肥満作用には主にt10,c12-CLAが関与し,c9,t11-CLAは脂質代謝には大きな影響を与えない.
免疫調節機能 : CLAは動物実験で免疫担当細胞のサイトカイン等の産生やその血液濃度に影響することが報告されている.産生あるいは血液濃度が減少するものにはロイコトリエン(LT)B4,LTC4,LTD4,インターロイキン (IL)-4,IL-12,PGE2,PGF,TNFα,免疫グロブリン(Ig)Eなど,反対に増加するものにIL-2,IgM,IgA,IgGなどがある.さらに,CLAにはリンパ球のマイトジェン刺激によるリンパ球幼若化の促進や免疫補助Tリンパ球と免疫抑制Tリンパ球の比率を変化させるなどの生理作用が報告されている.このような変化はヒトでも観察され,CLAにはアレルギー・炎症反応抑制,感染防御などの生理作用があると期待される.生理作用はc9,t11-とt10,c12-CLAで異なるようであり,より精細な検討が必要である.
以上のように,CLAは様々な生理作用が期待できる魅力的な食品素材である.

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© 2006 日本食品科学工学会
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