日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
分別生産流通管理(IPハンドリング)
橘田 和美
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2007 年 54 巻 1 号 p. 59

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抄録

遺伝子組換え食品の表示が平成13年4月1日よりJAS法及び食品衛生法に基づき義務化された.表示義務の対象となるのは,大豆,とうもろこし,ばれいしょ,なたね,綿実,アルファルファ,てん菜の7種類の農産物と,これを原材料とし,加工工程後も組み換えられたDNAまたはこれによって生じたタンパク質が検出できる加工食品32食品群及び高オレイン酸遺伝子組換え大豆及びこれを原材料として使用した加工食品(大豆油等)である1)
遺伝子組換え農産物を原材料とする,或いは,遺伝子組換えのものと非遺伝子組換えのものが分別されていない農産物を原材料とする場合は「遺伝子組換え」「遺伝子組換え不分別」等と表示することが義務づけられている.また,任意ではあるが「遺伝子組換えでないものを分別」等と表示するためには,分別生産流通管理(IPハンドリング : Identity Preserved Handling)が必要となる.IPハンドリングは正式には,「遺伝子組換え農産物及び非遺伝子組換え農産物を生産,流通及び加工の各段階で善良なる管理者の注意をもって分別管理し,その旨を証明する書類により明確にした管理の方法」と規定されている.
IPハンドリングの方法としては,多様なものが考えられるが,表示の対象となるものの中で,バルク輸送される北米産の大豆,とうもろこしが大きな割合を占めているので,これらを対象とした「流通マニュアル」が(財)食品産業センターにおいて作成・配布されている(2001年12月改訂版発行)2).本マニュアルにおいては,農家の生産段階,カントリーエレベーターの流通段階,リバーエレベーターの流通段階,エクスポートエレベーター及び日本までの輸送段階,港湾サイロの日本国内流通段階,卸売業者(主として大豆)の流通段階,加工業者(グリッツ・スターチ工場)の流通段階,食品製造業者の流通段階の各段階における,チェックポイント,管理方法,必要な記録等が示されている.さらに,各段階にて発行される証明書の様式例も記されている.バルク輸送される北米産の大豆,とうもろこしについては,本マニュアルに即した管理・確認がなされれば,IPハンドリングがなされ,かつ,適切に確認されたこととなる.
しかし,IPハンドリングが適切に行われたことが確認された非遺伝子組換え農産物であっても,遺伝子組換え農産物が一定の割合で混入する可能性は否定できない.従って,IPハンドリングが適切に行われていれば,このような一定の「意図せざる混入」がある場合でも「遺伝子組換えでない」旨の表示ができることとなっている.大豆およびとうもろこしについては,現在行われているIPハンドリングの実態を踏まえ,5%以下の意図せざる混入が認められている.しかし,IPハンドリングによらない流通や,意図的に遺伝子組換え農作物を混入させた場合には5%以下の混入であっても,IPハンドリングを行ったことにはならず,「遺伝子組換え」,「遺伝子組換え不分別」等の表示が義務づけられる.同様のマニュアルは平成15年1月から表示が義務づけられたばれいしょ加工品のIPハンドリングについても作成・配布されている3)
尚,マニュアルが対象としている北米産の大豆,とうもろこし,ばれいしょ以外の農産物についても,遺伝子組換え農産物の意図せざる混入の可能性のある,生産,流通及び加工の各段階において,IPハンドリングの「流通マニュアル」またはこれに準じた方法による,管理及び確認が必要になる.

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© 2007 日本食品科学工学会
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