日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
マイクロバブル
許 晴怡椎名 武夫
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2007 年 54 巻 11 号 p. 516

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抄録

気泡の存在は,様々な食品製造・加工過程に影響を与え,そして食品の生産・製造効率および物性に影響する.技術の進歩により,マイクロ・ナノサイズの気泡の作製が可能になった.マイクロ・ナノバブルには,大きい気泡にはない特性,また,優れた特性を持っている.マイクロバブルについては,まだ統一した明確な定義はない.一般的には,一つひとつ分離して存在する直径数十ミクロンの微小気泡のことを指す.マイクロバブルの発生方式には,1)気液二相流体混合・剪断方式,2)超高速旋回方式,3)圧力加減制御方式,4)超音波方式,5)細孔方式などがある.発生方式によりマイクロバブルの特性が異なる可能性があることに留意する必要がある.
一方,ナノバブルは,数百nm以下の直径を有する気泡のことを指す.通常マイクロバブルの収縮により生成されるが,その安定性が低い.最近,電解質イオンを含む水の中でマイクロバブルを圧壊させることによって,安定なナノバブルを製造することが報告されている.しかしながら,その存在や特性についてはまだ十分に把握されていない.そのため,本稿ではマイクロバブルの特性および最近の技術動向について概説する.
上昇挙動
通常のバブルは急速に浮上して液面ではじけて消滅するのに対し,マイクロバブルは小さいため,ゆっくり浮上して最終的に水中で消滅する.その上昇挙動が周囲液体の物性に影響される.
自己加圧効果
水中に存在するマイクロバブル表面には,表面張力が働いているため,バブル内部の気体が圧縮され,バブルの内圧が高くなる.ヤング-ラプラスの式(ΔP=2γ/r, ここでγは液体の表面張力,rは気泡の半径)によると,バブルのサイズが小さいほど,その内圧が大きい.この自己加圧効果はマイクロバブルの独特な性質に関係する.
気体溶解効率
気体の水中への溶解は温度と圧力の関数である.一定温度のもとでは,気体の溶解度は,圧力に比例して上昇する.バブルが小さくなるほど,自己加圧効果が顕著になり,気体の溶解効率が高くなる.また,気体の液体への溶解は,界面を通した気体の移動現象であるため,比表面積が大きいほど,溶解効率が高い.また,上昇速度は遅く,水中での滞在時間が長いことも気体の溶解効率に寄与する.マイクロバブルを供給することで魚介類の養殖池や水耕栽培養液の溶存酸素濃度が改善され,農水産物の生産性が向上すると報告されている.
収縮運動
マイクロバブルは,自己加圧効果や発生方式によりバブルの内外圧力差が生じ,収縮が起こる.収縮運動を開始するときの気泡径を「限界気泡径」と呼ぶ.限界気泡径は,発生方式や周囲液体の性質により異なり,一概に定められない.マイクロバブルは,収縮・溶解を繰り返しながら小さくなっていき,最後に消滅する.バブルが小さくなるにつれ,縮小速度が速くなり,内圧が顕著に大きくなる.マイクロバブルが消滅する瞬間には,局部的に高温高圧状態となり,フリーラジカルを発生させると報告されている.最近,マイクロバブルには生物の血流や生長促進などの生理活性効果があると注目される.これは,マイクロバブルの収縮運動によりその周囲液体の物理化学的な変化と関係があるためと推測されている.水素イオン濃度や電気伝導度などの液体の基本的物性が変化するという報告がある.
表面電位特性
通常,マイクロバブルは負に帯電しでいるが,作製条件により正の電荷を帯びることもできる.バブルの帯電特性は,マイクロバブルの安定性や吸着性に寄与する.現在,マイクロバブルの吸着性,浮上性および消滅時に発生するフリーラジカルを利用した魚貝類畜養殺菌,水質浄化,廃水処理などへの応用が研究されている.オゾンマイクロバブルを用いることにより高い効果が期待される.
マイクロ・ナノバブル技術は有望な技術の一つとして,注目されている.しかしその現状は,応用開発が先行して進められており,基礎研究が遅れている.今後,マイクロバブルの特性評価方法の確立と,その有効性と安全性についての評価が必要となる.一方,ナノバブルの研究開発については,発生技術の開発および特性評価方法の確立,安定性の評価が重要な課題となる.

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© 2007 日本食品科学工学会
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