日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
電解研磨
原田 典
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2007 年 54 巻 2 号 p. 87-88

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抄録

電解研磨は,1931年フランスのP. Jacquetにより発表された技術で,現在では高い鏡面度が要求される食品,半導体,薬品等のステンレスタンクや容器,配管,流体機器などの研磨に広く用いられている.
電解液中に浸した電極と金属工作物の間に直流の電圧を加えると,陽極側の工作物が研磨され,表面粗さが改善されて行く(図1).これは工作物近傍に電解液より電気抵抗の大きい粘性層が形成され,粘性層が薄い工作物の凸部がより多く溶出することにより粗さが改善されるというものである(図2).
溶出量W(g)はファラデーの法則に従い,下記となる.
W=(I・t/96500)・(M/n)・η
ここで I : 電流(A),M : 原子量,n : 原子価
t : 通電時間(sec),η : 電流効率
ステンレスの場合では鉄とクロムを主体とした不働態皮膜(酸化皮膜)に常に覆われているが,不働態皮膜は電気抵抗が大きいために電流効率として溶出量に影響を与える.
電解研磨の目的を表1に示す.
電解研磨の応用技術として開発された「電解砥粒研磨」は,ナノレベルの粗さを高い能率で達成する技術として最近特に注目されている.
これは,電解液中で砥粒研磨を行いながら0.1A/cm2オーダーの直流電流を付加する方法である.この程度の電流密度での電解では不働態皮膜によって加工は進まないが,砥粒擦過によって凸部の皮膜が除去されるとその部分で金属の溶出が盛んに起こる一方,凹部の加工量がゼロに近いため,表面粗さが急速に改善される(図3).
ステンレスは勿論,難加工材のチタン,耐熱合金,各種金型材など,殆どの金属に適用可能で,電解研磨をはるかに凌駕する数nm(平均粗さ)を達成出来る.
表2に電解研磨,電解砥粒研磨,及び機械研磨(砥石,バフなど)の比較を示す.食品用のタンク,配管,各種機器では洗浄性が特に重要視されるが,電解及び電解砥粒研磨は,同一粗さの機械研磨に対してもはるかに優れた洗浄性を示すことが特長として挙げられる.

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© 2007 日本食品科学工学会
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