日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
ユニバーサルデザインフード
藤崎 享
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2008 年 55 巻 2 号 p. 78

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抄録

「ユニバーサルデザインフード」とは,「利用者の能力に対応して摂食しやすいように,形状,物性,および容器等を工夫して製造された加工食品および形状,物性を調整するための食品」と,日本介護食品協議会の自主規格に定義している.定義中,摂食とは,食品であることを認識し,口中に運び,咀嚼し,喉の奥に送り込み,嚥下する一連の行為をいう.
近年の急速な高齢者人口割合の高まりの中,咀嚼・嚥下機能に障害のある高齢者向けに家庭内で利用できる介護用加工食品(以下介護食品と略す)が一般に販売されるようになった.しかし,これらの介護食品は供給するメーカーによって規格がまちまちだったり,表示内容も統一されていないなど利用者の選択にとって課題が多かった.
このような中,介護食品が利用者や指導的立場の方に円滑に受け入れられ,かつ安心して使用できる仕組みの構築を要望する声が加工食品製造業者の間で上がったことから,平成14(2002)年4月,日本介護食品協議会(以下協議会という)が設立された.協議会では,加齢とともに「かむ力」や「飲み込む力」が弱まった高齢者から,歯の治療中などで食事が不自由な一般の方にも食べやすいことから「介護食品」を「ユニバーサルデザインフード」と命名し,自主規格制定,関連する情報の提供,普及啓発活動等を行い業界の健全な発展をめざしている.
平成19(2007)年6月1日現在の協議会会員数は44社,ユニバーサルデザインフード商品の登録数は233品目(前年同期の登録数は178品目)と年々多くの商品が投入され,また,平成18(2006)年のユニバーサルデザインフードの生産実績は金額ベースで3976百万円,前年対比131.2%と高い伸びを示している.
「ユニバーサルデザインフード」は「とろみ調整食品」,「乾燥タイプ」,「冷凍タイプ」,「容器包装詰加圧加熱殺菌(レトルト食品)タイプ」,「その他容器包装詰タイプ」と多様な加工食品形態を包含しており,これらは「かむ力」,「飲み込む力」への配慮から,製品のかたさと粘性といった機器で測定できる客観的な指標をもって定められた規格により「区分1~4」と「とろみ調整」として構成している(表参照).区分1~4は主食や惣菜等となる加工食品の各形態を主に分類しており,区分番号の順に物性はやわらかい値となるよう設定している.「とろみ調整」は飲み物や食べ物にとろみをつけて飲み込みやすくするための食品であり,「粉末状」をはじめ,「あん状」や「ゼリー状」などの商品形態がある.
各区分の物性規格には上限値を設定しているが,区分3および4については「かたさ上限値」の他,「飲み込む力」への配慮事項として「粘度下限値」についての規格も別途定められており,これらを併用して最終的な区分を設定する仕組みとなっている.
これらの規格基準はその設定のみにとどまらず,協議会会員各社の販売するユニバーサルデザインフード商品に「ロゴマーク」とともに区分数値を表示することで実際に目に見える形で運用されており,これをもって利用者の選択に資するよう配慮を行っていることが大きな特徴である.
一方,厚生労働省では「高齢者用食品」を「特別用途食品」の表示許可の対象としているが,ここでは「そしゃく困難者用食品」および「そしゃく・嚥下困難者用食品」が定義されており,許可を受けた商品は高齢者の用に適する旨を医学的,栄養学的表現を持って記載することができる.これに対してユニバーサルデザインフードは食品業界(協議会)独自の自主基準による運用であるため,特別用途食品の様に特定の用途に向けた商品であることを商品に表示することはできない.このため,商品によっては訴求点を明確に提示しにくいところはあるものの,「物性に配慮した一般の食品」という位置づけで捉えることで,「ユニバーサルデザインフード」というネーミングの通り,多くの生活者を対象とした汎用性の高い食品として認知を広げつつある.
人口における高齢化率が着実に高まる中,加工食品メーカーが物性に配慮した食品を利用者に提供していくことは今後の必須用件として見込まれていることから,ユニバーサルデザインフードが今後多くの利用者の商品選択を行う際の一助となることが期待される.

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© 2008 日本食品科学工学会
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