日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
エコフィード
大森 英之
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2009 年 56 巻 2 号 p. 118

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抄録

エコフィードとは,「国内で発生した食品製造副産物,加工屑,余剰食品,調理残さ及び食べ残しを一定程度原料とする飼料」のことであり,「エコロジーでエコノミカルな飼料」という意味である.また,エコフィード/ECOFEEDは社団法人配合飼料供給安定機構により商標登録されている(2007年6月).
日本の畜産業は食品産業から排出される製造副産物や食品残さ等の食品循環資源を飼料として有効に利用してきた.その代表がいわゆる残飯養豚である.しかし残飯は成分が不安定で腐敗しやすく,多給すると豚の成長や肉質に悪影響を及ぼす危険があった(厚脂,軟脂,脂肪の黄化,不快臭等).一方,輸入飼料を原料とする配合飼料はハンドリングも良く,良好な成長と肉質が得られるため,畜産物の需要の増大とともにその利用が進んでいった.その結果,我が国の飼料自給率は,25%にまで低下している.そのような状況の下で,輸入飼料価格が急騰したことにより,国内の畜産農家は大変厳しい状況に置かれている.
平成13年5月に施行された食品リサイクル法により,食品関連事業者は食品廃棄物の再生利用が義務付けられ,食品循環資源の飼料化は重要な課題として取り組まれるようになった.また平成19年の改正においては,再生利用のなかで飼料化が最優先に位置づけられた.
平成17年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では,平成27年度までに飼料自給率を35%にまで高めることが目標とされている.この目標の達成のために,農林水産省は「全国食品残さ飼料化行動会議」を設置して食品循環資源の飼料化の推進に取り組んでいる.現在,日本国内における食品残さの発生量は約1135万トン,そのうち飼料化されている量は約250万トンであるが,これを倍増させることが目標である.
エコフィードの製造および販売には安全性の確保が最も重要である.これに関しては,飼料安全法および家畜伝染病予防法の遵守と,平成18年8月に制定された「食品残さ利用飼料の安全性確保のためのガイドライン」に沿った飼料化が求められる.
エコフィードの原料となる食品残さの水分含量は一般的に高く,飼料として利用するためには腐敗を防ぎ,保存性を高める必要がある.エコフィードの種類と技術は主に乾燥飼料化,リキッド飼料化,サイレージ化の3つに分けられる.これらの技術にはそれぞれ長所と短所があり,原料の種類や家畜の飼養条件に応じて使い分ける必要がある.
乾燥飼料化は熱源を利用して原料の水分を減らし,腐敗を防いで長期保存を可能とする技術である.広域流通が可能となる,従来の給餌システムがそのまま利用できる等のメリットがあるが,乾燥にかかるコストが問題となる.乾燥方式には,乾熱乾燥,発酵乾燥,ボイル乾燥,油温減圧乾燥方式などがある.
リキッド飼料化は,主に豚用のエコフィードに用いられる技術である.原料となる食品残さや製造副産物を,水や高水分の食品残さ(牛乳など)と混合し,液状の飼料として給与する.乾燥飼料化と比較して調製に要するエネルギーが少なくてすむ反面,従来の給餌システムが利用できないため,施設改修のための初期投資が必要となる.ギ酸等の有機酸を添加することにより飼料のpHを低下させ,雑菌の増殖を抑制することにより保存性を高めることができる.またリキッド飼料を乳酸発酵し,乳酸によりpHを低下させて保存性を高めたものが発酵リキッド飼料である.保存期間は約1~2週間程度である.
サイレージ化は,ビール粕や豆腐粕等高水分の原料を密封し,乳酸発酵により雑菌の増殖を抑制して保存性を高める技術である.密封の不備による不良発酵やカビの発生,開封後の二次発酵による変敗に注意する必要がある.保存期間はリキッド飼料よりも長いが,乾燥飼料と比べると短い.
多様な食品循環資源を原料とするエコフィードは,その成分も多様であり,その特徴を生かした畜産物生産が可能である.脂肪含量が多い原料については,配合飼料への一部混合,脂肪の少ない原料との組み合わせ,制限給餌などにより脂肪の給与量を抑えることで,適度にやわらかい,特徴的な豚肉を生産できる.また,パン屑を多給することにより筋肉内に脂肪(サシ)が入ることが知られており,これを利用した霜降り豚肉の生産も行われている.
エコフィードに関する取り組みは,我が国の環境問題と食料自給率向上の2つの大きな課題の解決につながるものであり,今後さらなる広がりが期待される.

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© 2009 日本食品科学工学会
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