日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
ORAC
小西出(三上) 一保
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2011 年 58 巻 9 号 p. 470

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抄録

ORAC (Oxygen Radical Absorbance Capacity : 活性酸素吸収能力)法は,米国国立老化研究所のCaoおよび米国農務省(USDA)のPriorらにより開発された抗酸化評価法である.生体成分の酸化反応に類似した反応様式を含む評価系として着目されている.米国では,326品目の果実および野菜を中心とした食品の抗酸化能をORAC法により評価し,USDAのホームページで公開すると共に,ORAC法をAssociation of Official Analytical Chemists(AOAC)に提案し,標準法として世界に普及させる方向にある.また,飲料やサプリメントへのORAC値の表記が実際に進んでいる.
ORAC法の長所としては,1)生体内の脂質過酸化で発生する脂質ペルオキシラジカルを想定したラジカル発生試薬を使用すること,2) 2つに大別される抗酸化能測定方法の反応様式のうち,HAT (Hydrogen Atom Transfer水素原子供与)機構に基づくラジカル連鎖反応のモデルとなる方法であり,DPPH (1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)法を含むSET (Single Electron Transfer電子供与)機構による評価法に比べ,より生体関連性が高いと考えられていること,3)親水性,親油性どちらのサンプルも分析可能であること,4)血清サンプルをはじめとする生体試料の評価が可能であること,5)水系における生理的pHでの反応であることがあげられる.
これらの点から,抗酸化成分摂取の生体影響評価を予測する方法として日本における関心も高い.2007年には,抗酸化能評価に関わる多分野の研究者および食品の抗酸化能に関心を寄せる企業が集結し,Antioxidant Unit (AOU)研究会が設立され,「抗酸化能測定法の標準化」および「生体影響を考慮した成分ベースの抗酸化単位の算出方法の確立」を目指した活動が開始されている.その中で,標準法の一つとしてORAC法が選定されており,分析法の改良と標準作業手順書の作成,妥当性確認試験および各種食品の抗酸化能に関するデータベース構築に向けた活動が進行中である.
ORAC法では,2,2'-azobis (2-amidinopropane) dihydro-chloride (AAPH)から発生するペルオキシルラジカル存在下で,蛍光プローブであるFluorescein(励起波長485 nm, 蛍光波長535 nm付近)が分解され,蛍光強度が減退する過程を経時的に測定する.この反応系に抗酸化物質が共存すると,蛍光プローブに生じる蛍光強度の減退が抑制・遅延されるため,この遅延効果を抗酸化能として評価する.試料共存下での蛍光強度の経時変化曲線の曲線下面積(Area under the curve ; AUC)および試料非存在下(ブランク)でのAUCとの差(net AUC)は試料の抗酸化能に比例するため,標準物質である6-hydroxy-2,5,7,8-tetra-methylchroman-2-carboxylic acid (Trolox)におけるnet AUCに対する相対値として評価し,抗酸化能はTrolox当量(Trolox Equivalent ; TE)で表される.AAPHからのラジカル発生は温度感受性であることから,温度制御が可能な蛍光マイクロプレートリーダーで測定する.また,ORAC法は水溶液中での測定であるため,親油性成分を測定する場合には,ランダムメチル化β-シクロデキストリンを用いて親油性成分を可溶化する.
これまで筆者は,(社)日本食品科学工学会が受託した,農林水産省総合食料局食品産業企画課の補助事業の一環である「食品機能性評価支援センター事業」に携わり,本事業で当学会により刊行された食品機能性評価マニュアル集を基に食品機能性評価手法の技術研修を担当してきた.平成18~22年度に渡り5年間継続された本事業において,延べ109名の研修生(地域の食品開発に携わっておられる研究者・技術者等)を迎えたが,その内ORAC法の研修受講者は50.5%にのぼった.親水性ORAC法の共同室間試験の成果が報告され,ORAC法への関心は今後更に高まることが予想される.

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© 2011 日本食品科学工学会
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