現在,リン酸塩は,粘着性や発色効果を高めるために食品添加物として水産ねり製品などの加工食品に使用されている.しかし,その過剰摂取により,カルシウム吸収阻害のリスクがあることが危惧されている.本研究では,新規水産ねり製品の製法で用いたクエン酸Naとポリリン酸Naやピロリン酸Naに代表されるリン酸塩との比較を,in vitro腸管モデルであるヒト結腸がん由来細胞株(Caco-2)を用い,カルシウム能動輸送・受動輸送機構への影響を検討した.
その結果,受動輸送評価では,ポリリン酸Naは,細胞毒性を示さない最高濃度で,有意にカルシウムイオンの細胞膜透過を阻害し,ピロリン酸Naは,阻害の傾向がみられた.また,クエン酸Naには,その傾向はみられなかった.一方,能動輸送評価においては,いずれの有機酸Naも全てのカルシウム能動輸送過程で遺伝子の一貫した発現の亢進または抑制はみられなかった.また,クエン酸Na含有水産ねり製品は,リン酸塩を用いる通常製法に比べ,in vitro消化物中の水溶性カルシウム形成が認められた.
以上のことより,新規製法で用いたクエン酸Naは,ポリリン酸Naでみられたカルシウム受動輸送阻害はせず,且つカルシウム能動輸送関連遺伝子の発現変化も異なることが確認され,食品添加物としてのクエン酸Naは,リン酸塩で危惧されるカルシウム吸収阻害リスクは,少ないと考えられた.