日本食品科学工学会誌
Online ISSN : 1881-6681
Print ISSN : 1341-027X
ISSN-L : 1341-027X
報文
長期貯蔵した照射香辛料のESR,PSL,TL法による検知
亀谷 宏美齊藤 希巳江萩原 昌司等々力 節子
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 62 巻 8 号 p. 382-393

詳細
抄録

本研究では,日本国内で入手可能な7種の香辛料を長期貯蔵し,ESRを用いた照射セルロースラジカル由来のS信号検出による照射検知の可否について検討した.その際,CEN標準分析法が定めるEN178715) の測定条件と判定基準に拠る方法(測定法1)と,S信号の検出に適した測定条件を設定し,S1信号の強度とMSまでの距離を判定基準とした方法(測定法2)を比較検討した.S1,S2信号の強度と距離を判定に用いる測定法1では,信号強度が微小なS1,S2信号の検出が困難なことや,高磁場側のS2信号が線幅の広いMS信号に覆われて観測することができず,照射した香辛料であっても「非照射」と判定されることが多かった
一方,最適化した測定条件,判定基準(測定法2)により長期貯蔵した7種の香辛料の照射検知の可否について検討した結果,ほぼすべての香辛料で照射線量に関わらず2ヶ月後まで照射と判定できた.さらに,1kGy照射では黒コショウが4ヶ月後,クミンは6ヵ月後程度判定できた.5kGy照射では,コリアンダー,白コショウが4,6ヵ月後,黒コショウとクミンは4年後も照射と判定できた.各々の香辛料の照射判定結果から,黒コショウとクミンは照射後長時間経過してもESR法によるスクリーニング検査に利用できる可能性が示された.しかし,その他の試料(バジル,パセリ,オレガノ,コリアンダー,白コショウ)は長期貯蔵後に判定基準となるS信号の検出が困難なため,ESR法による検知には不向きであった.測定法2では,測定法1よりもS信号検出率が上昇し,より長期間高い精度で照射が判定できた.
PSL法はバジル,パセリ,オレガノ,コリアンダー,クミンの照射判定のスクリーニングに応用できる可能性が示された.しかし,ESR法で判別可能であった黒コショウはPSL法には不適応であった.一方,TL法は本研究で用いたすべての香辛料に対して4年を経過しても検知が可能であることを確認した.このように,TL法はESR法,PSL法に比べて照射判定の精度が高いが,試料調製や標準照射の工程を合わせると結果の判明まで3日を要すため,検査効率の点では劣っている.そこで,TL法とあわせて,ESR法とPSL法のいずれかを香辛料の種類に応じたスクリーニング法として組み合わせることができれば,照射香辛料の検知精度と検査効率の向上が見込まれる.
香辛料ごとに詳細な検討を要するが,少なくとも本実験で用いた試料について,クミンと黒コショウの照射検知が可能なESR法と,バジル,パセリ,オレガノ,コリアンダー,クミンの照射検知が可能なPSL法は,両者を使い分けることで,互いに不適応な試料のスクリーニング法として補完し合うことができる.

著者関連情報
© 2015 日本食品科学工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top