日本食品科学工学会誌
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ゼラチンの酵素架橋が粉末魚油の特性に与える影響
半澤 康彦仲川 清隆青木 茂太伊藤 隼哉松本 俊介阿久津 光紹金内 誠宮澤 陽夫
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2016 年 63 巻 5 号 p. 209-216

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抄録

最近我々は,TGaseによるゼラチンの共有結合的架橋反応に着目し,それを利用して凍結乾燥-粉砕造粒による粉末魚油の調製に成功した.架橋反応は粉末魚油調製において重要な役割を果たしていると考えられたため,本研究ではTGaseによるゼラチンの酵素架橋が,調製した粉末魚油の特性に与える影響について検討した.まず,TGaseの有無に関わらず,油脂を73 %含む粉末魚油の調製に成功した.酸化安定性試験の結果,粉末化したことで酸化安定性は顕著に向上し,酵素架橋によってさらに酸化安定性が高まる事を見出した.また,in vitro溶出試験で,PFO-TGaseは水中では油脂を放出する速度が遅かったが,人工胃液中ではPFOの場合と同等の速度で油脂が放出された.次に,SEMとCLSMを用いて粉末魚油の保存経過を観察した.結果,90日程度室温で保存しても2種類の粉末魚油の形状や油脂の分布はほとんど変化しなかった.この事から,酸化安定性の違いは形状変化の速さや油脂の染み出しによるものではないと考えられた.最後に,TGaseを作用させたゼラチンと作用させていないゼラチンの微細構造をAFMで観察した.酵素架橋形成によってゼラチン表面の分子密度が増加したことが考えられ,この事が酸化安定性や水中への油脂の放出性に影響を与える可能性が示唆された.
以上から,TGaseによる酵素架橋技術を用いることで,より酸化安定性が高く,加工食品に応用しやすい粉末魚油を調製できることが分かった.この粉末魚油を加工食品に使用することで,より手軽に魚油を摂取できるようになると期待される.

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© 2016 日本食品科学工学会
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