日本食品工業学会誌
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ヒラタケの菌糸体ならびに子実体の発育過程における炭水化物および有機酸の変化
吉田 博菅原 龍幸林 淳三
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1986 年 33 巻 7 号 p. 519-528

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抄録

ヒラタケをペプトン・グルコース液体培地で培養し,子実体形成におけるコロニー各部位の低分子炭水化物,高分子炭水化物および有機酸の動態を検討した。
(1) 発育過程における菌糸体,子実体菌柄部ならびに菌傘部の遊離糖含量は,乾物100g当り,4.62~19.46g, 8.26~22.32g, 5.50~12.84gに,遊離糖アルコール含量は,0.84~5.13g, 2.99~3.79g, 2.13~3.39gであり,その含量変化のパターンは部位により挙動を異にした。菌糸体ならびに子実体よりトレハロース,マンニトール,グルコース,フルクトースおよびアラビトールが同定され,主要成分はトレハロースとマンニトールであった。菌糸体中のトレハロースおよびマンニトール含量は子実体形成期に急減傾向を示し,転流炭水化物としての役割を担っているものと推測された。
(2) 発育過程における多糖成分含量は,菌糸体で47.92~55.56g,菌柄部で46.78~48.54g,菌傘部で41.18~42.07gであり,その含量は,菌糸体>菌柄部>菌傘部の順序であった。酢酸可溶多糖は菌糸体の発育に伴ない増加したが子実体形成期に入ると減少し,この画分は貯蔵炭水化物であることが推定された。また,菌糸体中のキチンも子実体形成に関与することが知られた。熱アルカリ可溶多糖,アルカリ可溶・酸不溶多糖,熱ギ酸可溶多糖およびアルカリ可溶・酸可溶多糖は顕著な含量変動を示さず,細胞壁構成成分としての役割を担っているものと考えられる。
(3) 発育過程における有機酸含量は,菌糸体で0.82~2.16g,菌柄部で4.97~5.18g,菌傘部で4.12~4.46gであり,菌糸体は子実体の1/2量以上であった。菌糸体の有機酸含量は発育に伴ない増加したが子実体は顕著な含量変動は示さず,その挙動を菌糸体と異にした。菌糸体ならびに子実体より11種類の有機酸が同定され,主要成分は菌糸体ではピログルタミン酸,リンゴ酸,コハク酸およびフマル酸の4成分,子実体ではリンゴ酸,クエン酸,ピログルタミン酸,コハク酸およびフマル酸の5成分であり,発育過程中における有機酸の分布パターンは部位により特徴を有していた。また,シュウ酸の蓄積は菌糸体および子実体ともにみられなかった。

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