日本食品科学工学会誌
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焙煎大豆中トリプシンインヒビターの熱失活に及ぼす微量水分の影響
盛永 宏太郎
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2002 年 49 巻 3 号 p. 182-187

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抄録

水分含量の異なる丸大豆,大豆粉およびガラス管封入大豆粉を加熱した後,残存水分量と残存TI活性を測定して次の結果を得た.
(1) 大豆粉は焙煎法でTIを熱失活させるのは非常に困難であるのに対して,ガラス管に封入した大豆粉のTIは容易に失活することを認めた.焙煎丸大豆のTIも容易に熱失活するがガラス管封入大豆粉のTIの方がより容易に熱失活した.
(2) 焙煎後の丸大豆,大豆粉およびガラス管封入大豆粉の残存水分を測定したところ,ガラス管封入大豆粉は密封されているために水分の蒸発乾燥はなく,従って焙煎後も焙煎前の水分が全量残存した.丸大豆は種皮や細胞膜に包まれた半密封状態であり焙煎前の約半量以上の水分が残存した.大豆粉は粉砕されているために焙煎中に水分が容易に蒸発して,残存水分は0%に近い値になった.
一般にタンパク質が加熱変性するときの温度は水分が多量に存在するときは水分量の影響を受けないが,微量の場合は水分量に著しく影響を受けることから推測すると,大豆粉中のTIが焙煎法で熱失活しないのはこの微量水分が焙煎中に容易に蒸発してなくなるためではないかと思われた.
(3) 水分量を段階的に調製した大豆粉をガラス管に封入した後,焙煎してTIの失活率を調べたところ,焙煎後の残存水分が少量になるのに比例してTIは熱失活しなくなることを認めた.水分0%の大豆粉を焙煎してTIを失活させるには焦げて黒変する190℃以上の高温焙煎を要した.
(4) 通常の生の丸大豆は約10%の水分を含み,焙煎後も5~6%の水分が残存することが認められたので,TIを熱失活するには150℃ 20分の焙煎温度で充分目的が果たせるものと思われた.
(5) 乾燥大豆粉をオートクレーブで120℃ 20分加熱する場合は,少なくとも粉の13%以上の水分が含まれるよう予め粉に加湿する必要があるものと思われた.

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