日本食品科学工学会誌
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異なる臨界点乾燥法により食品表面に析出する人工産物
峯木 真知子小林 正彦
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2004 年 51 巻 10 号 p. 519-523

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抄録

走査型電子顕微鏡の観察試料の調製は,通常,(1)試料を固定・脱水,(2)無水エタノールから酢酸イソアミルへの置換,(3)酢酸イソアミルから液体二酸化炭素への置換,(4)臨界点乾燥,の4つの操作からなる.
この便法として無水エタノールから直接,液化二酸化炭素に置換する方法が提唱されている.本研究は,この便法を用いた臨界点乾燥により,数種の動物性および植物性タンパク質ゲル食品に共通の構造をした人工産物を生じることを明らかにしたものである.
卵製品(全熟卵,蒸し卵,プリン),ゼラチンゼリー,牛乳ゲル,豆腐,豆乳ゲルの7種の試料を,固定・脱水し,酢酸イソアミルを中間液として用いる通常法と無水エタノールから直接に置換する直接法を用いて,走査型電子顕微鏡で比較観察した.
その結果,直接法を用いた卵製品,ゼラチンゼリー,豆腐には共通の構造をした析出物が出現した.析出物は一点から針状あるいは棒状のものが放射状に伸張したもので,直径0.3-1μmであった.これに対し,通常法では,いずれも析出物は出現しなかった.また,卵黄,牛乳ゲル,豆乳ゲルではどちらの方法でも析出物は出現していなかった.これらのことから,便法により作成した試料に出現した析出物は本来の食品組織には無い人工産物であると判断された.
この直接法による析出物は動物性・植物性タンパク質にかかわらず,出現したものとしないものがあった.析出物が出現した食品の性質から,水溶性タンパク質からなるゲル状物に析出物を生じる原因物質があると考えられた.また,元素分析の結果からエタノール可溶性のナトリウム化合物が析出するものと考えられた.元来,食品は含水量が多く,タンパク質・脂質を成分とした軟組織試料が多いことから,臨界点乾燥の直接置換する方法は避けるべきである.

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© 社団法人 日本食品科学工学会
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