理論と方法
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特集 社会学における進化論的アプローチの可能性
社会進化のロジック
─自然選択と主体選択─
土場 学
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1998 年 12 巻 2 号 p. 181-194

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抄録

 社会進化については、しばしば、生物進化では自然選択が中心的であるが社会進化では主体選択が中心的である、という構図にもとづいて議論されることがある。しかしそこには、社会進化のロジックが適切に定式化されていないことによる概念的な混乱が含まれている。すなわち、本来的には、生物進化は物理的実在の世界の現象であるのに対し、社会進化は理念的実在の世界の現象である。にもかかわらず、この存在論的なレベルを混同してしまうことから、生物進化は自然選択で社会進化は主体選択という構図が導かれる。しかしながら、自然選択と主体選択の相違は、生物進化と社会進化という存在論的なレベルの相違に対応しているのではなく、社会進化を説明するさいに考慮しなければならないある認識論的なレベルの相違に対応している。すなわち、自然選択と主体選択とは、社会進化のプロセスに関与する諸々の主体の「世界」を準拠点とした上で、前者は主体の「ルール」に作用する選択として、後者は主体の「行為」に作用する選択として位置づけることができる。しかしそうすると、現実の社会進化のプロセスが自然選択によるものか主体選択によるものかを識別するためには、主体の世界のありようを記述・説明するためのロジックが不可欠であるということになる。したがって、こうしたロジックを用意しえていない現在の社会進化論では、それらの識別はもっぱら観察者の(主体の世界に対する)態度に依存しているといえる。

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© 1998 数理社会学会
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