理論と方法
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特集III 実証の姿 その思想と展開
方法論のジャングルを越えて
―構築主義的な質的探求の可能性―
中河 伸俊
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2001 年 16 巻 1 号 p. 31-46

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抄録

 質的探求の方法論は多元化し、それをめぐる議論は錯綜している。本稿の目的は、社会問題研究の分野で定式化された構築主義アプローチの理路の明確化を通じて、そうした錯綜から抜け出る道を探ることである。グブリアムらの『質的方法の新言語』は、質的探究の「方法についての言語」を、自然主義、エスノメソドロジー、感情主義、ポストモダニズムの四つに整理する。自然主義は従来、社会学や人類学の質的探究の主流だった。他のものは、それに対する方法的反省の三つの方向を示すといえよう。筆者がコミットする構築主義アプローチの質的探究は、基本的には、エスノメソドロジーのhowの問いに、自然主義的なwhatの問いを再構成して組合せたものである。この二つの問いに導かれる構築主義的探究は、長年社会学のセールスポイントであり続けてきたwhyの問いを禁欲する。それは、その問いが招き寄せるポジティヴィストの原因論(因果モデル)が、研究対象となる人びとの営みの全体化(物象化)につながり、日常言語のカテゴリーと乖離した専門的カテゴリーに依拠し、自然科学における規則性と社会科学における規則性の性質の違いを無視するものであるからだ。グブリアムらは上の四つの方法論の総合を奨めるが、それは生産的ではないだろう。むしろ、エスノメソドロジーを踏まえた構築主義的探究に特化して、「調べられるものを調べる」という姿勢を堅持し、研究対象となる人びとの営みの全体的記述と本質的記述を断念することが、現下のいくつかの方法論的難題から抜け出し、健全な経験主義を再興するための近道であるだろう。

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© 2001 数理社会学会
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