社会的ジレンマをはじめとする協力の成立可能性問題を進化ゲーム理論的に分析する際、ランダム・マッチングを仮定するとうまくいかない。ランダム・マッチングでない相互作用、すなわち選択的相互作用を扱う代表的モデルとして、格子モデルと多水準淘汰モデルが挙げられる。本稿ではこのうち多水準淘汰モデルについて、理論上の基礎づけを確認し、代表的な2つの数理モデルについてその意義と課題を検討する。理論上の基礎づけに関しては、淘汰の単位をめぐる論争が焦点となる。ここではヴィークルという概念を導入することにより、自己複製子淘汰と矛盾することなく多水準淘汰が考えうることを示す。そして多水準淘汰の先行モデルは、絶滅型モデルと離合集散型モデルに大別できるが、それらは分析する対象によって使い分けることが適切であることを示す。