2010 年 25 巻 1 号 p. 49-64
個々の行為主体がもつ個別財としての社会関係資本と,ある集団に存在する集合財としての社会関係資本との相互関係は,社会学理論におけるマイクロ-マクロ連関の一例として理解することができる.「機会と制約の構造(マクロな集合的社会関係資本)が合理的行為(マイクロな個別的社会関係資本)に影響する」側面と「合理的行為の集積が社会的な構造を生み出す」側面は,相互に循環して社会的世界を形成しているはずである.本稿では,温泉地の観光まちづくりに関する社会調査データを,観光まちづくりの発展段階という動的な過程の存在を仮定した上で分析し,この2つの側面のどちらがより強くデータから支持されるかを検証した.結果は前者の存在を強く示唆するものであり,後者の側面は支持されなかった.これは,社会的な構造を合理的行為の集積として説明することのむずかしさを改めて示す結果である.