本稿では,出身階層と学力の関連を学校教育制度がどのように媒介しているかという観点から,国際比較によって日本の特徴を明らかにする.そのためのデータとして,15歳の生徒を対象としたOECDの学習到達度調査(PISA)の2003年度版を用いる.分析では,国ごとの教育制度の違いを類型化し,階層線形モデルを適用して,学力に対する社会経済的地位の影響が,どのように類型ごとに異なった形で制度的に媒介されているかに着目する.
分析の結果,出身階層と学力の関連パターンが,教育制度の類型によって大きく異なることが示された.また,類型内では,ある程度共通した関連パターンが見出された.これらのことは,この教育制度の類型を用いて,出身階層と学力の関連の制度的媒介の違いを解釈することの妥当性を示唆する.
日本を含む受験競争モデルでは,職業学校に通う生徒の割合は小さく,学校が将来の職業と明確な関連を制度上もたない.また,学校の地域ごとの多様性は比較的小さく,留年する生徒もほとんどいない.だが,以上の特徴にもかかわらず,学校間で階層化される度合いが大きい.このことが,受験競争モデルにおける教育と不平等の制度的特徴であることが明らかになった.また,日本は,学力と社会経済的地位の関連のほぼすべてが,高校受験によって学校間格差に変換されているという点で,特に明確な特徴をもつ国であることが示された.