抄録
本稿の目的は特定の関係を結んでいない他者への協力が促進される条件を明らかにすることである.山岸は特定の他者に対する信頼とそれ以外の他者に対する信頼を区別し,社会関係資本論は特定の他者に対する信頼を暗黙裡にそれ以外の他者に対する信頼に「還元」させていることを指摘し,緊密で同質的なネットワーク内で生成される評判ではネットワーク外の他者に対する協力的関係を構築できないと批判する.本稿では個人がワンステップ内で伝わる評判によってネットワークを切り替えていくと想定し,Macy&Sato で用いられたモデルをもとにモデルを構築した.このモデルを用いて機会費用と取引費用が一般的他者への協力に与える影響を分析した.その結果,機会費用が極端に小さいとき,スター型に近いネットワークが形成される傾向があり,中心性の高いエージェントを中心に不特定の他者に協力する秩序が生成され,費用が極端に大きいときはスター型のネットワーク構造からワンショット型の協力状態に変化することが明らかになった.