理論と方法
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原著論文
職業意識は,その後の世代内移動に影響するか?
吉岡 洋介
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2012 年 27 巻 1 号 p. 99-116

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抄録

 世代内移動の説明要因として,階層研究では,個人に外在する構造変数がおもに注目されてきた.一方,仕事に関する意識研究の分野では,個人に内在する意識変数が世代内移動の1つである企業間移動(従業先からの移動)に影響するという前提が,職業意識を扱う研究意義の1つとされてきた.そこで本稿では,(1)戦後日本社会で広く信じられてきた,現状肯定的な職業意識が,その後の企業間移動を阻止する効果と,(2)もう一つの帰結として,その後の職業階層間の移動を妨げる効果を,社会調査データにより明らかにした.分析には,男性対象者を27年間(1979年-2006年)の長期的なインターバルをおいて追跡したパネルデータを用いた.そして,世代内移動を企業間移動と職業階層間の移動とに区別した上で,離散時間ロジットモデルにより現状肯定的な職業意識の効果を検証した.分析の結果,有職男性の現状肯定的な職業意識は,その後の企業間移動のしやすさに明確な影響を見せなかったものの,その後の職業階層間の移動を妨げることがわかった.よって,ポスト経済成長期において有職男性の現状肯定的な職業意識は,労働市場における移動よりもむしろ,社会移動における文脈でより明確な停留効果をもつことが示された.

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© 2012 数理社会学会
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