2015 年 30 巻 2 号 p. 273-292
本稿の目的は,調査モードによる回答への影響を検証することである.これまで日本の学術研究において伝統的に用いられてきた紙の調査票を用いるPAPI(Paper and Pencil Interviewing)と,ICTを用いたCAPI(Computer-Assisted Personal Interviewing),CASI(Computer-Assisted Self- Interviewing)の3モードを回答者に無作為に割り当てた実験的デザインの調査データを用いて,PAPIとCAPI(コンピュータ支援の有無が異なる),CAPIとCASI(どちらもコンピュータ支援であるが他記式と自記式の違いがある)のそれぞれで,意識や行動についての回答平均値を比較した.その結果,PAPIとCAPIでは差異は見られなかったが,CAPIとCASIでは差異が見られた.また,傾向スコアによってモード間の無回答誤差の影響を調整した分析によって,この差異が無回答誤差によるものではないことを確認した.近い将来,ICTを用いたモードへの転換がおこると予想されるが,これまでPAPIで実施されてきた調査をCAPIでの実施に切り替えたとしても,それによって比較可能性が損なわれる可能性は低い.しかし,紙の調査票を用いた場合と同じように,コンピュータ支援調査においても自記式と他記式ではモード差が見られる項目があるため,時系列比較を主眼とする調査においてPAPIなど他記式で行われていた調査をCASIで実施することには慎重になる必要がある.