2017 年 32 巻 1 号 p. 127-139
自分自身の過去の暮らし向きと現在の暮らし向きとの主観的比較が現在の主観的ウェルビーイングに与える影響は,順応仮説が予想するように,比較の対象となる過去が時間的に遠くなるほど薄れるのかを検証した.具体的には,2015年に全国の20歳~69歳の男女個人を対象に実施したオンライン調査のデータ(N = 10,434)を用いて,子どもの頃との比較と5年前との比較のどちらが生活満足度に大きな影響力を与えるのかを,OLS回帰分析によって比較した.分析の結果,順応仮説の予想に反して,子どもの頃との比較は5年前との比較よりも大きな影響を生活満足度に与えており,過去の状況の影響は時間の経過とともに薄れるわけではないことがわかった.このことは,主観的ウェルビーイングを向上させるためには,現時点での状況に対する支援だけでなく,ライフコースの初期段階における機会格差を是正するためのより長期的な視野に立つ政策が求められることを含意する.