脳と発達
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<シンポジウム15:日本遺伝子細胞治療学会―日本小児神経学会(JSGCT-JSCN)連携シンポジウム難病に対する遺伝子治療実用化への展開>
小児神経疾患のアデノ随伴ウイルス遺伝子治療の実際
小島 華林
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2024 年 56 巻 5 号 p. 353-358

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抄録

 小児神経疾患には遺伝子治療が有望な単一遺伝子疾患が多い.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは非分裂の神経細胞で長期発現が期待できる.AAV9は,血液脳関門を通過し神経細胞移行が良く,中枢神経疾患治療の主流である.神経疾患の遺伝子治療として,脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するAAV9ベクターにSMN遺伝子を挿入した静注薬が初めて保険適用され,効果が得られている.我々は,ドパミン合成に必須のDDC遺伝子変異で発症する,芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症の遺伝子治療臨床研究を施行した.両側被殻にDDC遺伝子搭載AAV2ベクターを注入し,全例で運動機能改善,ジストニア消失などの効果を得て,現在,医師主導治験をおこなっている.GLUT1欠損症とNiemann-Pick病C型も治験準備中である.腰椎穿刺しカテーテルを大槽まで進めベクター注入し,脳の広範な領域にベクター導入する投与経路で臨床応用を目指している.AAVベクターを用いた遺伝子治療が適した疾患の条件として,単一候補遺伝子疾患,ないしは,導入すべき遺伝子が明確な疾患,機能的異常による疾患,かつ遺伝子が発現過剰しても問題のない疾患,一部の細胞への導入で機能回復が期待される疾患,治療効果の判定を行えるモデル動物が存在するなどが考えられる.ベクター開発や投与法開発が進んでおり,AAV遺伝子治療対象疾患は今後も拡大が期待される.

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© 2024 一般社団法人日本小児神経学会
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