脳と発達
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特異な半側空間失認を示した一酸化炭素中毒の小児例
市場 尚文
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1983 年 15 巻 6 号 p. 519-525

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抄録

一酸化炭素 (CO) 中毒による無酸素性脳症のため, 特異な半側空間失認のほか多彩な神経心理学的症状を示した9歳の女児例を報告した.
症例はCO中毒直後昏睡, 呼吸抑制状態におち入ったのち, 2日目に一旦意識レベルが改善したが, 再び3日目より6日間の昏睡におち入る間歇型発症であった. このあと, 回復期症状として半側空間失認, 失書, 失行, 計算障害, 左右障害を示した. もっとも興味深いのは半側空間失認で, 視力・視野障害がないにもかかわらず, 読字に際しては左半側失認を示す一方, 動作模倣の際には逆に右半側失認を示した. 同時期に刺激の内容により半側失認が左右に移る報告は従来みられない.
半側空間失認の責任病巣はCT・脳波検査で示唆された左右の頭頂葉-後頭葉病変と考えられるが, CO中毒の病巣が脳梁を含む白質の脱髄であることを考慮すると, 言語と空間認知・構成行為の左右それぞれの優位半球が反対側の半球との連絡を断たれたために起こったdisconnexion syndromeによる可能性もあることを指摘した.

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© 日本小児小児神経学会
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