脳と発達
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Independent compartment phenomena (独立隔室現象): 幼若脳における頭蓋内圧・脳組織内酸素代謝動態の特殊性
動物実験モデルによる実証
大井 静雄
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2000 年 32 巻 2 号 p. 102-109

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抄録

頭蓋内圧動態の変動により生じた頭蓋内圧勾配の病態を分析し, それが脳循環動態にいかに影響し脳組織内酸素代謝を変動させてゆくかを, 幼若脳の特殊性において解析した.方法には, 幼若犬を用いて, ヘルニア脳を作成しテント上下の各compartmentにおける圧動態と脳組織内酸素分圧変動を, 頸動脈の血流モニター下に分析した.結果として, 幼若脳では頭蓋内出血で血腫量・体重比に示された値において成熟脳より著しい耐久性が示された.そして, テント上に生じた頭蓋内圧充進の病態は, 同compartment内においては, 脳循環, 脳組織内酸素代謝に著しい影響を及ぼし, その超急性期の変化として一過性の脳組織内酸素分圧の急激な上昇が成熟脳に比し著しく示されるものの, テント下における脳循環, 脳組織内酸素代謝への影響は逆に成熟脳より軽微であることが示唆された.結論として, 幼若脳における頭蓋内圧亢進の病態の本態として, これまでに重視されてきた幼若頭蓋, 脳の解剖, 物理学的特殊性に加え, 未発達脳の脳循環, 脳組織内酸素代謝が, とくにテント上下の頭蓋内圧勾配の発生において独立した各compartmentでの現象として影響を受けるものであることが推論された.著者は, この病態生理をここにindependent compartment phenomena (独立隔室現象) と呼ぶことを提唱し, その病態成立に5つの関連要因を考察した.この特殊病態は, 臨床上, 生命予後良好ながらも機能予後不良のdiscrepancyを生じ, 幼若脳に発生する頭蓋内圧亢進において特有の転帰に至る機序となっているものと考えられる.

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© 日本小児小児神経学会
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